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覚え書:「耕論:どうする、歴史ある建築物 松隈洋さん、土居丈朗さん、菊川怜さん」、『朝日新聞』2014年11月21日(金)付。


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(耕論)どうする、歴史ある建築物 松隈洋さん、土居丈朗さん、菊川怜さん
2014年11月21日
 
 完成から長い年月が過ぎ、時代の要請で改修や取り壊しを余儀なくされる建築物がある。人々の暮らしや営みをみつめてきた役割は終わるのか。それともどうにかして残すべきなのか。

 ■近代建築の寿命、短すぎる 松隈洋さん(京都工芸繊維大学教授)

 世界的な建築家・丹下健三が手がけたコンクリート打ち放しの香川県庁東館は、1958年の完成から56年が経ち、耐震改修工事が必要になっています。

 中央部のコアと柱だけで地上8階、高さ43メートルの建物を支え、外側はガラス張り。戦後民主主義の時代を象徴する開放性があり、柱と梁(はり)を組み合わせた日本建築の独自性も持ち合わせている。全国の自治体庁舎のモデルとなったこの建物について、私も参加した香川県の有識者会議は「非常に高い文化的価値がある」として保存を求めました。

 建物を残すため、外観と内部空間の保存を可能にする基礎免震工法を軸にした検討を会議は提言しました。耐震改修工事の最中も、職員が仕事を続けられることが大きな利点です。

 ただ、工事費が40億円程度かかることから、香川県はこの工法以外に、工事費を安くして外観を大きく変えたり、建て替えたりする案を含め、六つの選択肢から今月中にも結論を出します。もっと工事費を抑えながら上手に建物を残す改修方法は、知恵を持ち寄れば必ず見つけられる。近代建築の保存は世界共通の課題であり、模範となる保存の道筋を「香川モデル」として示してほしいと思います。

 近代建築は1920年代にヨーロッパで始まります。人口集中による生活環境の劣悪化と、第1次大戦後の住宅不足を前に、鉄やガラス、コンクリートを用いて快適で機能的な生活空間の実現を提案したのです。日本では関東大震災後の同潤会アパートや、戦後の広島ピースセンター、神奈川県立近代美術館などに象徴されます。

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関・イコモスは20世紀の建築を「リビング・ヘリテージ(生きている遺産)」と位置づけています。また、工場で大量生産された材料を使い、予算に見合う合理的な方法で生活環境を形づくるという近代建築が切り開いた枠組みは、現代も全く変わっていません。

 ところが、近代建築は普段使いの身近なものであるために、その重要性が共有されにくく、日本ではどんどん取り壊され、新しい建物に変わっています。また、市町村合併に伴う特例債を活用して、自治体規模に見合わない大きな新庁舎を建てる計画も多々あるように、本当に必要な建物なのか疑問が残るものも多いのです。

 建築物には本来、人々のよりどころとなり、生活環境の持続性を守る役割があります。そのためには人間の寿命よりも長く存在する必要があるのに、日本の近代建築の平均寿命は50年程度と非常に短い。少子高齢化と人口減少で日本の生産力も落ちる中で、いま手の中にあるものをどうやって大事に長く上手に使うのかという視点が求められるのではないでしょうか。

 (聞き手・高橋福子)

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 まつくまひろし 57年生まれ。専門は近代建築史。前川國男建築設計事務所を経て現職。近代建築の保存を提唱する国際学術組織「DOCOMOMO(ドコモモ)」日本支部代表。

 ■共感の広がりを吟味して 土居丈朗さん(慶応大学教授)

 かつて慶応大学の三田キャンパスには世界的な彫刻家のイサム・ノグチ氏と、建築家の谷口吉郎氏が共同設計し、1951年に完成した「萬来舎(ばんらいしゃ)」という研究室棟がありました。1階にあった談話室は「ノグチルーム」と呼ばれ、親しまれていましたが、10年ほど前に法科大学院を新設するため、この棟を解体して、「ノグチルーム」など一部の施設を新校舎に移築する計画が持ち上がりました。

 すると、教員や学生らによる保存運動が起こりました。「作者の意図と違う場所に移築すれば芸術性が失われる」などの主張が提起され、論争が巻き起こりました。私は「時代の要請で法科大学院は必要。都心の三田キャンパスはそもそもスペースが限られているから、移築はやむを得ない」と考えました。結局、校舎の配置などを総合的に判断し、建物を解体して移築・保存することが決まりました。

 シンボルとして存在してきた歴史的建築物がなくなると、愛着を感じていた人にとっては「心に大きな穴が開いてしまう」と考えるほどの喪失感をもたらします。逆に言えば、1882年の着工から建設が続くスペインのサグラダ・ファミリア教会や、ナポレオン3世の時代からその街並みの美しさが守られているフランス・パリなどでは、周辺に生きる人たちの建築物や景観への強いこだわりが「時間が経っても変わらない」ことへの支えになっています。

 維持に費用をかけるかどうかを判断する上で大切なのは、住民や建物に愛着を感じる人たちの間で「維持をしたい」という共感がどれだけ広がっているかにかかっていると思います。

 東京などの大都市なら、税金を使わなくてもビジネスベースで歴史的建築物を守れることがあります。赤レンガで有名なJR東京駅の丸の内駅舎は、高層化しないことで生まれる「空中権」を周辺の新築ビルに譲ることで保存工事の費用をまかないました。規制緩和で東京駅周辺では、低層のビルが使っていない容積率をほかに転売することが可能になっていたのです。

 一方、オフィス需要にとぼしい地方都市では、こうしたやり方は事実上不可能です。少子高齢化による人口減で自治体財政は悪化する一方です。「2040年には全自治体の半数が機能不全」との試算もあります。

 建築物が永続的に存在するためにはお金が必要です。ただ、維持コストの原資は、税金がすべてではありません。寄付を積み重ねるという選択肢もあるのです。寄付は「自分のお金を出してでも守ってほしい」という建築物への強い共感の表れでもあります。世代を超えて建物を継承したいという共感がどれほど広がっているのか。自治体も住民も、綿密に吟味すべき時代に入っていると思います。

 (聞き手・古屋聡一)

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 どいたけろう 70年生まれ。専門は財政学、公共経済学。「地方債改革の経済学」でサントリー学芸賞。他の著作に「日本の財政をどう立て直すか」「財政学から見た日本経済」など。

 ■長い目で残す価値考えて 菊川怜さん(女優)

 世の中と関われる理系の学問を選ぼうと思い、大学で建築を専攻しました。当初は建築家の名前を一人も知りませんでした。学び始めてみると、科目が多く、模型をつくって図面を引いてと、簡単な分野ではないと分かりました。

 その頃から芸能活動を始めたこともあり、授業に出席するのも大変でした。教授になりたての安藤忠雄さんから、鎌倉にある美術館の増築について課題を出され、緊張しながら発表した記憶があります。

 建築物は、何のためにつくるのかという「目的」が、ちゃんとあってこそ価値が出るもの。私が見た建築物で印象に残っているのはフランスの建築家ル・コルビュジエが両親のために建てた小さな家です。スイスのレマン湖のほとりにあるのですが、コルビュジエが「両親が楽しく幸せに暮らせるように」という目的で建てたものです。

 中に入ると、ここを猫が通ったんだろうなとか、屋上庭園でひなたぼっこしたのかなとか空想が広がりました。住む人が何を求めているのか、建築家が寄り添って考えたと思えるすてきな家でした。

 全国で老朽化した建物を保存するかを考える時、未来を見据え、何のために残すのか、その目的を真剣に考えなければいけないと思います。安全第一が最優先ですが、自治体は財源が限られていますし、保存するには予算が大きくかかります。どうしても目先のコストだけで考えがちですが、建物が地元で大事にされてきたものならば、もっと長い目で残す意味をはっきりさせていく作業が大事なのだと思います。

 ヨーロッパでは、建物の外側は維持し、中身だけ変えることをしますよね。だから、町に歴史の重みをすごく感じる。

 日本には地震があります。だから伊勢神宮みたいに、建物をつくりかえていく歴史があるんだと思います。私の住む東京は、計画性よりも、無秩序につくりかえて発展してきたイメージがある。その複雑性が特徴の一つとなって魅力的に感じられる都市だともいえます。

 最近は斬新な建物が増えました。2020年の東京五輪のためにつくる新国立競技場は物議を醸していますが、私は良い悪いというよりも、人類が「こういうものをつくりたい」とデザインすることで、技術が進歩することがあると思います。空を飛びたいと思い、飛行機がつくられたように。新国立競技場は、そんな先進的な建物になってほしいと思っています。

 今後、建築とどう関わっていきたいかですか? 建築物を見に行くのが好きなので、ドキュメンタリー番組で、有名な建築家の建物を見て歩くような仕事を続けていきたいですね。

 (聞き手・田嶋慶彦)

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 きくかわれい 78年生まれ、埼玉県出身。東京大学工学部建築学科卒業。98年にデビューし、ドラマ、映画などに幅広く出演。現在は朝の情報番組のキャスターを務めている。 
    --「耕論:どうする、歴史ある建築物 松隈洋さん、土居丈朗さん、菊川怜さん」、『朝日新聞』2014年11月21日(金)付。

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[http://www.asahi.com/articles/DA3S11466729.html:title]

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