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覚え書:「2014衆院選:アベノミクスは正解か 若田部昌澄さん、浜矩子さん」、『朝日新聞』2014年12月01日(月)付。

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2014衆院選)アベノミクスは正解か 若田部昌澄さん、浜矩子さん

大胆な金融政策/機動的な財政政策/民間投資を喚起する成長戦略

 安倍晋三首相は、アベノミクスを進めていくべきか国民の判断を仰ぐという。日本経済は2四半期連続のマイナス成長だ。3本の矢で強い経済を取り戻せるのか。デフレから抜け出すため真に必要なものは何か。政治が果たすべき役割は。

 ■第4の矢を加えて再起動せよ 若田部昌澄さん(早稲田大学教授)

 いまのアベノミクスの問題点は当初の政策から変質してしまったことです。オリジナルのアベノミクスの方向性はよかった。それが、今年4月の消費税増税を決める前後からおかしくなってきた。

 ただ、すべてが振り出しに戻ったわけではありません。アベノミクスのプラスの効果は明らかにあります。「第1の矢」の金融緩和でインフレ予想が高まり、景気拡大への期待が生じて株価が上がり、資産が増えた。失業率も改善しました。非正規かもしれませんが、雇用は増えているんです。

 本来のアベノミクスは、デフレ脱却を最優先課題として、そのもとで経済再生と財政再建を進めるものでした。それと矛盾するような動きが、消費税増税によってもたらされている。政策の優先順位が間違っているんです。

 安倍政権下での景気拡大を牽引(けんいん)してきたのは、消費の伸びです。設備投資はあまり伸びていませんが、内需が引っ張る、非常にいいかたちでの景気回復だったといえます。それなのに、消費税増税で家計の消費を直撃してしまった。

 ■消費税5%再び

 しかも消費税増税が財政再建につながっているかは疑問です。税率を上げても税収は減ってしまいかねないので、むしろ財政再建から遠ざかってしまっている。消費税を上げれば、人々が財政への不安を抱かなくなって景気が回復するという見方もありましたが、そういうことは起きていない。

 消費税増税先送りは当然だし、せざるをえなかったと思います。アベノミクスは、成長率が上がる中で財政を再建していくのが基本プランです。しかし、4〜6月の実質成長率がマイナス7・3%、7〜9月がマイナス1・6%で、これから上向いたとしても、年間の成長率が実質でマイナスになる可能性がある。増税の前提条件がもはや保たれていないんです。

 では代案はあるのか。「本来のアベノミクスに戻る」のが、その答えです。経済を成長させることで、税収を増やして財政を再建する。オリジナル・アベノミクスを再起動させればいいんです。

 衆議院の解散なしに、オリジナルのアベノミクスに戻ることができるならベストですが、現状では難しい。自民党は、2012年に民主・公明と3党合意し、消費税増税を決めました。それをひっくり返す、もしくは延期するのであれば、国民に信を問わざるをえない。こうした政治的制約のもとで、アベノミクスの原点に戻るための最適解が、今回の解散・総選挙なのだと思います。

 ただ、オリジナルのアベノミクスを再起動させるだけでなく、さらにバージョンアップしていくことが必要です。日本銀行は10月末に追加の金融緩和を決めましたが、今回の成長率マイナスには対応できても、次の増税には耐えられない。政府と日銀が一体となって、名目3%、実質2%の成長率達成にコミットすべきです。そのために、13年1月の政府と日銀の共同声明を、法律として明文化してはどうでしょう。

 大胆かもしれませんが、消費税を5%に戻すのが最善手です。消費税減税は、英国やカナダでも行われたことがある。海外で成功している政策は、日本でもうまくいく確率が高いといえます。

 ■低所得層へ配慮

 消費税には逆進性があるので、高所得者層よりも低所得者層の負担が大きい。そこをケアするために、定額給付金や給付付き税額控除、社会保険料の徴収の一時免除などを考えるべきです。減税や給付金は、「第2の矢」としても、公共事業より効果的です。

 さらに、「第4の矢」として、社会保障改革と一体になった所得再分配が必要です。いまのアベノミクスは金持ち優遇の政策のように見られがちです。所得再分配をもっと明示的に打ち出して、生活保護制度をどうするかも含めて、低所得者への対応が不可欠です。消費税増税はその逆をやってしまった。

 今回の解散・総選挙は、アベノミクスをオリジナルに戻すいい機会です。その上で足りないものを強化し、さらにバージョンアップしていく。所得再分配によって、国民を包摂するような方向に向かうべきです。

 (聞き手 尾沢智史)

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 わかたべまさずみ 65年生まれ。専門は経済学史、経済学。リフレ派の論客として知られる。著書に「解剖アベノミクス」「もうダマされないための経済学講義」など。

 ■強者だけ生き残る社会は滅ぶ 浜矩子さん(同志社大学教授)

 アベノミクスは崩壊しつつあると思います。金融の異次元緩和で円安、株高を導き出したけれど、輸出数量は期待したほど伸びず、輸入価格が上昇して生活と生産のコストが上がっている。家計や中小企業は圧迫されています。

 株価が上がれば、経済がよくなるという考え方は本末転倒です。本来は、実体経済がよくなって株価が上がるものです。しかも上がったといっても、日経平均は2万円に届かない。株をたくさん買っているのは外国人投資家で、彼らは売るために買うから長続きしない。円安と株高の二つの芸だけでは経済政策の限界は明らかです。

 ■まだ成長戦略?

 世論調査の結果をみても、多くの人が景気がよくなったと感じていません。何をやっても、なかなか思った通りにいかず、衆議院を解散したのではないか。下手な将棋士が将棋盤を眺めて「もう、いやっ」とひっくり返すように。

 最大の眼目が成長戦略だというのも時代錯誤です。確かに発育過程には成長が必要でしょう。でも日本経済はもう大人。成熟しているのに、まだ成長戦略ですか。お年寄りにドーピングして、100メートルを9・9秒で走れ、と言うようなものです。副作用どころの話ではない。格差が広がっているのに重点政策の視点が違っています。

 アベノミクスは強い者をより強く、弱い者はそのままにしておく政策だと言わざるを得ません。株高などの恩恵に浴した富裕層から富がしたたり落ちる「トリクルダウン」が効くのだと称して、熱い部分をどんどん熱くしている。

 その結果が人手不足です。おかげで、中小企業は人手が足りずに増産もできない。富はしたたり落ちていないのです。そんな状態では、創造力豊かな面白い発想が生まれるはずもありません。

 消費増税はいずれやらなければならなかった、というのは分かります。所得税に依存する今の税体系は、戦後のサラリーマン世帯中心の社会を想定したものです。消費税を導入した1989年当時も世界に冠たる平等社会で、「分厚い中間層」がまだ健在だった。しかも税率は3%です。

 今は非正規社員が増え、貧困の連鎖が起きている社会です。なんの激変緩和措置もなしに税率が8%になり、それが死活問題となる人々が出てきている。

 再増税の先送りはそりゃそうでしょう。でも、なぜ1年半先の2017年4月なのか。その間になんとかなると思っているのでしょうか。このままではデフレ脱却は夢のまた夢だと思います。

 やるべきことは別にあります。最大のテーマは、これまでに蓄えた富をどう分かち合うか、いかに分配するかです。それができていないから豊かさの中に貧困が存在しているのです。

 ■内部留保に課税

 所得の低い人ほど負担感が大きい消費税を引き上げていくなら、軽減税率の導入は当然です。生活必需品の税率を下げ、ぜいたく品には逆に「重増税率」を適用していい。高額所得者に対する金持ち増税、企業の内部留保への課税なんかも考える必要があります。

 そもそも成長戦略と大仰に言わずとも、ずうたいのでかい経済が1〜2%も成長すれば、すごいことです。日本経済の完成度は高く放っておいても回る。でも回転の輪の中に貧困が存在するから足腰の強い経済が実現しない。彼らがちゃんと暮らせるようにすれば、結果的には成長率アップだって、それが必要かどうかはともかく、実現する可能性はあるでしょう。

 めざすべきは、多様な人々が参画できる社会です。強い人たちだけが生き残る均一化した社会は、必ず滅びます。東京と地方の関係も同じ。東京一極集中が進んで、地方が疲弊して立ちゆかなくなると多様性が失われます。

 安倍政権は「地方創生」を掲げて、ストーリー性やテーマ性、観光資源の発掘を目指せとあおります。地方は皆、テーマパークになれということですかね。地域を再生するために本当に必要なものは何か。高齢化対策か、少子化対策か、働く場所の確保か、それぞれの地域がまず自らを分析しなければならない。分析結果に基づく取り組みを政府がアシストする。これがまともな姿でしょう。

 (聞き手 編集委員・多賀谷克彦)

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 はまのりこ 52年生まれ。専門はマクロ経済分析、国際経済。ユニークなたとえ話を使った経済評論で知られる。著書に「グローバル恐慌」「老楽国家論」など。

 ◆キーワード

 <アベノミクス> デフレからの脱却をねらう安倍政権の経済政策。「3本の矢」からなる。第1の矢は「大胆な金融政策」で、流通するお金の量を増やす。黒田東彦総裁率いる日本銀行が物価上昇率2%を目標に量的・質的緩和を進めている。第2の矢は「機動的な財政政策」で、政府が需要をつくりだし、景気を下支えする。第3の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」。規制緩和や税制改革などで企業の投資を促したり、新たな市場を創出したりして持続的な経済成長を図る。
    ーー「2014衆院選:アベノミクスは正解か 若田部昌澄さん、浜矩子さん」、『朝日新聞』2014年12月01日(月)付。

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[http://www.asahi.com/articles/DA3S11485036.html:title]


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