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覚え書:「2014衆院選:中小都市から考える 木下斉さん、宮川克己さん、林口砂里さん」、『朝日新聞』2014年12月05日(金)付。

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2014衆院選:中小都市から考える 木下斉さん、宮川克己さん、林口砂里さん
2014年12月5日

 衆院解散の直前、地方創生の関連法が駆け込みで成立した。だが法律だけで地方が復活できるほど現状は甘くない。大都市でも小さな町村でもない、中小都市から地方の将来を考えた。

 ■「いかに稼ぐか」発想転換 木下斉さん(エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)

 安倍政権が地方創生を掲げています。「地方」というと限界集落が想像されがちですが、今後、問題が深刻になるのは、地方で中心的役割を果たしてきた人口10万〜30万人程度の「中小都市」です。

 中小都市が縮小する一因は、交通網や情報網の高度化です。かつては地域の中心でしたが、新幹線や高速道路、高速ネットが通ると、1地域がカバーする範囲が拡大して、より大きな都市に集約されてしまう。東北でいえば、かつては各県の県庁所在地に支店があった企業が、仙台や東京に機能を集約し、個々の県は出張で済ませるようになる。ネットの発達で、業務や会議も遠隔で可能になり、出張の必要性すら減っています。

 交通や通信の高度化が進む以上、中小都市は新たなあり方を模索しなくてはなりません。単に「若い人を地方に移住させる」だけでは若者が割を食うだけです。必要なのは、人口縮小社会に合わせて中小都市を「経営」していくことです。

 にもかかわらず、多くの中小都市はいまだに再開発事業などによって一発逆転を目指しています。人口10万〜30万の規模があれば、初期投資は国からの支援と組み合わせて捻出できる。しかし、開発費の5倍ともいわれる巨額の維持費用は負担できません。人が減って自治体が消滅する以前に、赤字事業で財政破綻(はたん)する可能性が高いです。

 国から中小都市への支援政策を根本から改めなくてはいけません。地方創生の基本は、地味でもしっかり黒字になる事業に注力し、縮小する人口に対して過剰な行政をスリム化することです。

 小規模でも、従来とは異なるやり方で収支が成り立つ事業は可能です。岩手県紫波町の複合施設「オガールプラザ」は好例で、公共施設の図書館と、民間による産直市場、カフェや居酒屋を合築しました。補助金に依存せず、民間が投資して、テナント料で黒字経営しています。

 行政が、従来の公共事業のやり方から脱却し、「稼ぐ」という発想に切り替えるカギは、首長の経営マインドです。計画をコンサルタントに任せるのではなく、行政職員が自分の手で作ることです。これまでの行政改革は「ムダを削る」という総務部的な発想ばかりでしたが、これからは「いかに稼ぐか」という営業部的な発想が必要です。

 人口10万〜30万の中小都市は、経営しだいで持続できる可能性がある。他地域の成功事例の模倣ではなく、他にない「稼げるメカニズム」を生み出す努力が大切です。稼げる地域には雇用が生まれ、人も集まり、財政も改善します。

 国も自治体がみずから稼ぐことに注力するように、交付金や補助金ではなく、投資や融資に支援策を転換すべきです。

 (聞き手・尾沢智史)

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 きのしたひとし 82年生まれ。高校時代に商店街活性化の会社を起業。全国の地方都市でまちづくり事業立ち上げや地域連携に携わる。著書に「まちづくりの『経営力』養成講座」など。

 ■市民巻き込み、創る居場所 宮川克己さん(青森県弘前市のタウン誌編集代表)

 地方創生の関連法で何ができるか? 現場ではいまひとつピンと来ません。政府の応援はありがたいが、地域の「創り方」はそれぞれの土地で異なる。人口は減るけれど、知恵を出すしかないとハラを決めています。

 青森県弘前市のJR弘前駅前から弘前城へ向かって延びる土手町商店街は、10年前と比べて空き店舗がなくなり、ずいぶんにぎやかになりました。市が5年ほど前に郊外開発をやめ、中心市街地にシフトする方向に舵(かじ)を切った。それだけじゃない。街を変えようとする動きに参加する人が増えてきたことが、さらに人を寄せ付けています。

 弘前にはもともと夏の花火大会がなかったのですが、今年で9回目となる「花火の集い」は、ぼくら青年団体が創ったイベントです。運営スタッフ200人はボランティア。市民からも200円の参加費をいただきます。企業からのカネに頼るのではなく、できるだけ多くの人を巻き込んで面白くやろうと。しかも長続きするよう「身の丈」の規模を心がけています。

 今月には、城近くの市民会館のホールに300人が集まって津軽三味線の大合奏をします。催しをみんなで創るという手法は、12年前に地元出身の美術家が倉庫で開いた展覧会がきっかけでした。美術館がなくてもできるという提案に若い人が集い、終わってみれば5万人超を集めた。自分たちで創るだいご味、手応えを実感したのです。

 最近はどこの自治体でも、大きなイベントはコンサルタント会社に丸投げ、が当たり前です。担当者は安心だし、失敗した時の責任もとらなくていい。でも、それじゃあいつまでたっても役人目線。他人事です。

 まちづくりには、女性の視点も欠かせません。私が創刊したタウン誌は年1回、約8千部を発行していますが、すべて20代から40代の女性ボランティア15人が取材しています。しかも出産や育児などで毎年、その半数が入れ替わるので、関係者はどんどん増えている。

 弘前にはカフェや美容院のような専門店が多い。だからチーズケーキの特集を組むときは、弘前にあるお店ごとにケーキの写真を40個並べる。みんな同じ形のようだけれど、微妙に異なる店の顔が見える。

 私たちもカフェで議論します。そこでの雑談から生まれたアイデアが、花火大会の仕掛けや雑誌の特集に結びつく。小さなコミュニティーの雑談が街づくりのアイデアに具体化する。大都市ではできない技(わざ)です。

 学校を卒業して、みんないったんは弘前を出ていい。外から地元を眺めるチャンスになるからです。ポイントはその後、戻ってこられる魅力があるか。自分の居場所を見つけることができるか。中小都市の未来を占う岐路はそこにあると思います。

 (聞き手・菅沼栄一郎)

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 みやかわかつみ 64年生まれ。商店街事務局長を務める傍ら、街歩き情報誌「TEKUTEKU」編集代表。昨年、地域づくりを実践する初代「弘前リードマン」に選ばれた。

 ■街固有の価値、認識して 林口砂里さん(東京と富山県高岡市を往復するアート・プロデューサー)

 「田舎には何もない」。当時、音楽やアートが好きだった私は早く田舎を出たくて、高校卒業後、富山県高岡市から上京しました。そんな私の転機は東日本大震災。いつ、どこで何が起きるかわからない。「いつかやろう」と何となく先延ばしにしていたことを、今すぐにやらなければと思い直しました。週末だけ実家に帰って、父が近くの里山でやっている畑作の手伝いをするようになりました。

 久しぶりに見た高岡の街は、かつてにぎわった商店街がシャッター通りに変わっており、約400年も続く伝統工芸の高岡銅器や高岡漆器までも後継者不足で衰退気味だと聞きました。

 自分にも何かできないかと考えました。そこで知り合いに声をかけ、地元の大学教授らと共に、高岡の魅力を発信する一般社団法人を立ち上げました。

 米国映画や大河ドラマのタイトル映像で知られる映像作家の菱川勢一さんとは、かつて仕事でつきあいがあり、「高岡のよさをPRするビデオを作ってくれないか」とお願いしました。菱川さんは「そんなものを作っても誰も見てくれないよ。どうせなら高岡を舞台にした映画を撮ろう」と言ってくれた。

 それが「すず」という題名の短編映画になり、昨年11月からネットで公開しています。無料で貸し出すことで、東京、大阪、名古屋で50回以上の上映会が開かれ、今年はイタリアのフィレンツェ日本映画祭にも招待され、話題となりました。

 いまは高岡に住居も移しましたが、1カ月の3分の1は東京で仕事をしています。映画づくりのように、地方の中小都市・高岡の仕事をするためには、東京の仕事で得られる人脈や情報が有効と感じているからです。

 来春には北陸新幹線が開通するので、東京と行き来する私には便利になるかもしれません。しかし、高岡の活性化にはあまりメリットがない。観光客は、金沢を目指すでしょう。だからこそ、高岡らしい戦略を真剣に考えないと。地方の中小都市は、便利になることで、古くからあった伝統や文化を捨てて、どこも同じようなまち並みになっていく危惧を感じます。

 重要なのは、自分の街固有の価値とは何かを認識することです。高岡の場合は、伝統工芸や空襲に遭わずに残った古いまち並み。伝統工芸の技術に魅力を感じた若い金属工芸のクリエーターが少しずつ高岡に集まり始めていることに着目したい。

 行政に委ね過ぎるまちづくりも問題です。これからは、民間と行政がお互いに補い合い、協力し合って進めていくことが必要です。地方創生関連法が成立しましたが、今はただの理念にすぎません。地域で必死に取り組む団体に支援が届く仕組みを考えなければならないと思います。

 (聞き手・山口栄二)

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 はやしぐちさり 68年生まれ。美術館職員などを経て、展覧会やコンサートの企画・実行や画家、写真家、映像作家などのアーティストのマネジメントの仕事をしている。

 ◆キーワード

 <中小都市の人口減少> 国土交通省の推計で、2005年から50年の市区町村の人口減少率は全国平均で約25.5%。規模が小さいほど減少率は大きく、10万〜30万人の中小都市が平均値に近い。

 安倍政権は行政サービスの質と量を確保するため、人口20万人以上を地方中枢拠点都市として周辺市町村との広域連携を打ち出すが、民間の試算で40年までに若年女性が半減し、行政機能維持が難しい消滅可能性都市とされた中小都市も少なくない。
    −−「2014衆院選:中小都市から考える 木下斉さん、宮川克己さん、林口砂里さん」、『朝日新聞』2014年12月05日(金)付。

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[http://www.asahi.com/articles/DA3S11490584.html:title]

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