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覚え書:「特定秘密保護法に今こそ!言いたい:識者の話」、『毎日新聞』2014年12月10日(水)付。


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特定秘密保護法に今こそ!言いたい:識者の話
毎日新聞 2014年12月10日 東京朝刊

 毎日新聞は、特定秘密保護法の国会審議中の昨年11月から同法に懸念を持つ学識経験者、作家、政治家、法曹関係者ら約70人の意見を「特定秘密保護法に言いたい」で紹介してきた。主な意見を再掲するとともに、このうち5人の方から「今こそ言いたい」ことをあらためて聞いた。【聞き手・青島顕、日下部聡、斎川瞳】

 ◇「軍機保護法」と類似 荻野富士夫・小樽商科大教授(61)

 昨年12月、特定秘密保護法が強行採決の末に成立したのを受けた記者会見で、安倍晋三首相は「私自身がもっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと反省もしている」と述べた。しかしその後、首相から国民に向けて丁寧な説明が発信された記憶がない。

 日本近現代史を専攻する私には、戦前の「軍機保護法」との類似性が気になる。ともに「共謀罪」や、自首した者の刑を減免する規定が盛り込まれている。これらはスパイ防止制度の特徴だ。取り調べ過程で取引を持ちかけることも考えられる。

 1937年の軍機保護法改正の際、衆院は拡大解釈しないように求める付帯決議をした。しかし41年には、偶然耳にした海軍の飛行場のことを米国人に話した学生が身柄を拘束された。その後、政府は防諜(ぼうちょう)意識を植え付けて相互監視と密告を奨励し、施策に従順な国民づくりに進んでいった。そうした歴史を知る戦争体験者たちは、秘密保護法に不安を覚えるのだ。

 ◇大切なのはこれからだ 杉田敦・法政大教授(55)

 政府は特定秘密保護法のマニュアルにあたる運用基準を作ったが、不十分な内容だ。肝心の監視機関は官僚組織の内部に設けられ、第三者機関とは呼べず、実効的でない。

 本来、行政の監視は国会の役割だが、政治家自身も何が秘密かを知ることができない。司法も同様だ。秘密指定の妥当性をチェックする情報公開訴訟を市民が起こしても、裁判官は秘密の中身に触れることができない。国会、司法のチェック機能低下は行政の腐敗を招くだろう。

 特定秘密が官僚に都合よく使われ、省内で独自に指定する秘密も含めて、秘密主義が強まる恐れもある。そうなるとメディアの取材に支障が生じ、国民の「知る権利」は損なわれる。政府は「一般人には関係がない法律だ」と強調するが、全くの暴論だ。

 法律を懸念する国民の声があったからこそ、政府は不十分ながらも運用基準を作った。施行されたら終わりではない。大切なのはこれからだ。

 ◇権力の網が空からじりじり 石丸次郎・アジアプレス共同代表(51)

 ある民放の友人から「特定秘密保護法施行後は取材に注意しよう」という注意喚起が局内であったという話を聞いた。当たり前のようにしてきた取材が法に触れるかどうか気にしなければならない時代になるのだ、とショックを受けた。

 過激派組織「イスラム国」の戦闘員になるためシリアに渡ろうとしたとして大学生が私戦予備及び陰謀容疑で家宅捜索された事件で、フリージャーナリストの常岡浩介氏も捜索を受けた。自民党はNHKと在京民放に、衆院選報道の公平中立などを求める要望書を渡した。権力の大きな網が、空からじりじり下りてきているような感じがする。

 法が施行されれば、捜査当局は少なくとも、違反者の有無を調べるだろう。私たち独立系ジャーナリスト、調査活動をしている市民団体などが最初に標的になるのではないかと懸念している。だからといって遠慮するつもりはない。今後も同じように仕事を続けていこうと心に誓っている。

 ◇「適性評価」の選別は非現実的 富田三樹生・日本精神神経学会法委員長(71)

 特定秘密を扱う人を政府が選別する「適性評価」の調査項目に「精神疾患」がある。精神科医に照会がかかる場合、医師には守秘義務がある。私たちは今年夏のパブリックコメント(意見公募)で「患者への偏見・差別を助長する」と反対意見を述べたが受け入れられなかった。

 内閣情報調査室は意見への回答で「対象者の是非弁別能力の有無を判断するため」と説明した。要するに、対象者に刑事責任能力と同様の能力があるのかを判別するようだ。

 大いに疑問だ。裁判官が刑事責任能力を判定する場合、精神科医の鑑定書を基にする。しかし適性評価で鑑定書に相当するものを、対象者のかかりつけの医師が用意するなど非現実的だ。しかも刑事責任能力が疑われる患者なら、適性評価以前に通常の業務をこなすのも困難だろう。

 適性評価は、患者がやむを得ず同意したとしても、許されることではない。公務員らの個人情報収集が目的かと疑ってしまう。

 ◇毎月6日、反対を「ヒョウ明」 谷口真由美・全日本おばちゃん党代表代行(39)

 全日本おばちゃん党のメンバーは今も、(法が成立した昨年12月6日にちなんで)毎月6日、特定秘密保護法への反対を「ヒョウ明」するためにヒョウ柄の服を着ている。周囲の人たちとこの法律の話をするきっかけにしたいから。いわば「静かなデモ」だ。

 この法律が拡大解釈され、恣意的に使われたらどんなに恐ろしいか。特に集団的自衛権や原発に関係する情報とは「混ぜたら危険」だ。私たちの命にかかわる可能性がある。一方で積極的に賛成する声もほとんど聞かない。憲法改正などと違って国民を二分するテーマでもないのだ。

 この法律は国会で成立した。だから反対の国会議員を増やせば廃止させることもできる。そこに希望がある。問題点を分かっている人は、周囲の人たちに伝え続ける努力が必要だ。よく分からない人は「難しいから」と逃げてはいけない。将来の世代に「何であの時、抵抗しなかったのか」と言われないよう、今が踏ん張り時だ。

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 ◇「特定秘密保護法に言いたい」で紹介された主な意見

 ※敬称略

   氏名・肩書        意見の骨子

半藤一利 ・作家        危険はらむ「公益」の思想

原田宏二 ・元北海道警幹部   監視の先の改憲に危機感

石丸次郎 ・ジャーナリスト   「報道」の線引きに疑問

鎌田慧  ・ルポライター    取材記者萎縮、民主主義の危機

新原昭治 ・国際問題研究者   「国民のあきらめ」が怖い

M・ファクラー・米紙東京支局長 米国と同じ失敗するな

L・レペタ・明治大特任教授   米国は491万人で管理

新海聡  ・弁護士       情報公開、締め付けの恐れ

青井未帆 ・学習院大教授    自衛隊の性格、ゆがむ危険性

大石泰彦 ・青山学院大教授   取材の配慮、捜査機関の判断次第

栗田禎子 ・千葉大教授     イスラム交流、スパイ視懸念

柳沢協二 ・元官房副長官補   今までも情報得られていた

落合洋司 ・元東京地検検事   周辺情報も「秘密」扱いに

香山リカ ・精神科医      最も怖い「沈黙のらせん」

中村梧郎 ・ジャーナリスト   強化される国民監視

上田誠也 ・地球物理学者    秘密で研究成り立たず学問が退化

大沢悠里 ・アナウンサー    戦争体験者の嘆きに耳を傾けよ

原寿雄  ・ジャーナリスト   権力監視が犯罪にされかねない

保阪正康 ・作家        「市民権の保障」が揺らぐ

室井佑月 ・作家        国民は声を上げ、報道も継続を

安藤正人 ・学習院大教授    秘密解除文書の即時、完全公開を

想田和弘 ・映画監督      国民一人一人が自ら積極関与を

白川勝彦 ・元国家公安委員長  外国との情報共有は現行法で可能

岡崎哲二 ・東京大教授     情報欠落が国家的判断の誤り招く

杉田敦  ・法政大教授     制度化や運用、監視が必要だ

土山秀夫 ・元長崎大学長    「スパイ」にされた兄思い出す

我部政明 ・琉球大教授     萎縮せず基地監視を続けよ

わかぎゑふ・作家、演出家    日常的に政治語れる社会を

西牟田靖 ・作家        国家間の本質、描写困難に

色川大吉 ・歴史家       超党派の機関で拡大解釈防げ

村上達也 ・前東海村長     原子力立地の安全は情報で守れ

山本健慈 ・和歌山大学長    意欲的な人材の育成阻害

上田清司 ・埼玉県知事     有事に自治体へ情報届くか懸念

柳田邦男 ・作家        官僚の負の文化変えねば

篠崎正人 ・米軍監視団体員   国民の不安と無知招く

岡田尚  ・弁護士       罰を恐れた自主規制が怖い

加藤陽子 ・東京大教授     公文書管理の統一ルールを

白石孝  ・市民団体事務局   廃止を求める市民の熱は続く

むのたけじ・ジャーナリスト   報道の自主規制が怖い

山本孝治 ・元新聞記者     「不都合な事実」隠されないか危惧

加藤聖文 ・近現代史学者    歴史の検証が阻害される恐れ

崎浜盛三 ・精神科医      情報源の秘匿がより重要になる

青木理  ・ジャーナリスト   情報機関の権限が強まる恐れ

武藤糾明 ・弁護士       情報隠しが一層進むだろう

池宮城紀夫・弁護士       解釈次第で反対運動弾圧される

井戸謙一 ・元裁判官      原発に関する情報の隠蔽を危惧

渡辺鋼  ・元防衛産業社員   危険担わされる民間人を守れ

今川正美 ・元衆院議員     真実が隠され、闇を広げる恐れ

周防正行 ・映画監督      内部告発者が守られる社会に

吉岡斉  ・九州大教授     原子力情報の秘匿を危惧

荻野富士夫・小樽商科大教授   新聞は権力監視の自覚を

与謝野馨 ・元官房長官     国会もコントロール不能になる

富田三樹生・精神科医      患者情報の提供義務に反対

竹内修司 ・元編集者      公文書管理ルール確立が先だ

中田整一 ・作家        法の拡大強化の恐れ、歴史が示す

高見勝利 ・上智大教授     監視機関、内部告発者保護が重要

藤森克美 ・弁護士       「弁護権」の侵害は許されない

増田善信 ・元気象研究所    台風、津波の危険伝えられぬ恐れ

谷口真由美・大阪国際大准教授  「スパイ天国」って証拠あるの?

藤田早苗 ・国際人権法研究者  「知る権利は人権の要石」理解して

岸野亮哉 ・僧侶、写真家    適性評価の照会、住職は拒めるか

田中三彦 ・元原発設計者    原発情報、秘密の線引きに懸念

瀬畑源  ・近現代史学者    後の世への公開、担保に疑問残る

森絵都  ・作家        「思うこと」発言し政治変えよう

真山仁  ・作家        官の監視できてこそ民主主義機能

浅野史郎 ・前宮城県知事    情報公開の「聖域」放置せず監視を 
    --「特定秘密保護法に今こそ!言いたい:識者の話」、『毎日新聞』2014年12月10日(水)付。

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