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覚え書:「特集ワイド:続報真相 衆院選座談会 与党圧勝に潜む危うさ 萱野稔人氏/平野啓一郎氏/西崎文子氏」、『毎日新聞』2014年12月19日(金)付。


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特集ワイド:続報真相 衆院選座談会 与党圧勝に潜む危うさ 萱野稔人氏/平野啓一郎氏/西崎文子氏
毎日新聞 2014年12月19日 東京夕刊

(写真キャプション)自民大勝に笑顔の安倍晋三首相(中央右)ら。少数意見にも耳を傾けるだろうか=東京都千代田区の同党本部で14日夜、山本晋撮影


 与党で326議席と大勝した安倍晋三首相は来週にも組閣し、第3次安倍内閣が始動する。世論調査などで予想された結果とはいえ、今の政権をここまで強く「是認」するこの国の状況って、何なのだろう。小選挙区制というシステムにも問題はないのか。芥川賞作家の平野啓一郎、津田塾大教授の萱野稔人(哲学)、東大教授の西崎文子(政治学)の3氏に語り合ってもらった。【まとめ・江畑佳明、写真・小関勉】

 ◇継続必要な金融政策を争点に批判封じ
 --衆院選の結果から何が見えてきましたか。

 西崎 戦後最低の52・66%の投票率が示す通り、有権者は非常に冷めていました。というのも、なぜ解散をするのか、安倍首相の立場としては理解できても、国民一人一人としては納得できなかったからです。与党は望んだ結果を得られ満足かもしれませんが、政治不信、ひいては民主主義制度への懐疑心を確実に広げた。憲法改正というテーマが控えていることを考えると非常に危険な状況です。盛り上がりに欠けながら戦後政治の転換点として、歴史に残る選挙かもしれません。

 萱野 アベノミクスを争点にしたのは安倍政権のうまさでした。2005年の小泉純一郎首相の「郵政解散」がそうだったように、首相が「争点はこれだ」と設定すると、そのインパクトは相当に強く、野党がそこから抜け出すのは難しいんです。「効果が出るのはこれからだ」との主張には一定の説得力があるし、野党も「格差が広がった」と批判しながら「その格差をどうやって縮めるのか」との問いにうまく答えられなかった。金融政策には継続性も必要ですから、野党といえどもアベノミクスを全否定することはできない。そこを突かれた面もあります。

 平野 「うまさ」というより「ずるさ」でしょう。政府の経済政策を選挙で議論すること自体は否定できない。しかし、そうしている間に他の論点、安倍首相が執着する憲法改正などを問う時間が全くなくなってしまった。案の定、選挙が終わった途端、安倍首相は「信任が得られた」として憲法改正についても積極的な姿勢を示し始めています。

 西崎 論戦を盛り上げる責任は野党にもありますが、民主党はこの2年間、与党への対抗軸をつくる努力をほとんどしてこなかった。アベノミクスや安全保障の面で代案を出せなかったことがそれを証明しています。政権を失ったことについて、どれほど危機意識を持っていたでしょうか。

 ◇組織や団体で1強から「個」守る行動を
 --「1強」に傾く有権者の心理をどう読み解けばいいのか。

 萱野 テレビ局関係者の話では、選挙の特集番組をつくっても視聴率が取れないというのです。政党やメディアから「あれもこれも考えて投票すべきだ」と言われても、社会構造が複雑化して選挙の争点も多岐にわたり、「とてもそこまで考えきれない。一任するから何とかしてくれ」というのが大半の有権者の本音ではないでしょうか。

 平野 法律上の明確な規定がなくとも「これ以上やってはいけない」という常識の一線を、平気で乗り越えていく人が増えています。ネット炎上の罵詈雑言(ばりぞうごん)がそうだし、最悪の例はヘイトスピーチ。社会の緩やかな合意がどんどん失われている。安倍首相の政治手法にも、そうした風潮との相似性を感じます。特定秘密保護法、憲法解釈の変更、大義なき解散、いずれも「別に禁止されたことじゃないんだからいいだろう」と。航空機の座席の肘置きって、左右どちら側の人が使うか明確なルールはないけれど、お互い様で上手に使っていますよね。でも「決まりがないなら独占してもいいだろう」とドンと置く人が出てきたら、真ん中に線を引いて、そこから出ないようにとか、細かな規則を作るしかない。

 萱野 紳士協定的に守られてきたルールが破壊されつつあるのは、欧州も同じです。例えば公の場で人種差別的発言をしない、犯罪容疑者の人種を公表しないといったルールに対して、それらを守っていても問題は解決できないという議論がすごく力を持ち始めていて、明らかに政治家も引きずられている。経済成長が行き詰まるとともに社会から寛容さが失われるという先進国共通の問題が、そこにはあります。

 --違う意見に耳を傾け熟考することを拒む「反知性主義」という言葉も聞かれます。

 西崎 反知性主義には、一部のエリートが公的な知識と権力を独占している状況に異議を唱える正当な動きという側面もあります。ただ、不満が原点ですから、ヘイトスピーチのように情動に流れたり、排他性を強めたりする危険性がある。問題は権力の側がこの性質に着目し、論理的説明を避けて感情に訴える形で一定の方向に導こうとすることです。安倍首相は集団的自衛権行使を訴える場面で、お母さんや子供を守るといったことを強調しますが、これは極めて危険です。国民に議論の多様性を気づかせないようにする意図を感じてしまいます。

 平野 反知性主義の背景には「本音」が尊ばれるインターネットの影響があるでしょう。結局、その「本音」の善悪は知的に考えるしかないのです。

 もう一つは東日本大震災や福島第1原発事故で膨らんだ「専門家への不信」があります。

 --巨大与党下という状況の中でも「個」の意見や信条が押し潰されないようにするには、何が必要でしょうか。

 西崎 メディアが権力との関係を自覚することが重要です。自民党がテレビ局に「選挙報道は公平中立に」と要望したことには、もっと強い反応があってしかるべきだった。政策に賛成であれ反対であれ、報道の自由への介入は断固拒否する姿勢を一丸となって示すことが大切なメッセージになります。

 平野 「個」で傷だらけになっても闘えというのは厳しい。権力に対抗するためには、組織や団体が個人の言説を守っていく必要がある。最近、歴史学の学術団体が、朝日新聞の検証記事をきっかけに従軍慰安婦問題での強制性を否定する主張が出てきていることを批判する声明を出しました。こうした動きは極めて重要です。

 萱野 議論の作法を磨くというのは、個人にできる一つの対処法でしょう。理想論や問題提起だけでなく、具体的にどうするのか、現実面にまで落とし込んだ議論を心がける。そうでないと「またお花畑の話をしている」と皮肉られるだけです。

 ◇対抗軸なき小選挙区制に「独裁」リスク
 --小選挙区では、自民党の得票率は5割なのに議席は4分の3を占めました。

 西崎 そもそも小選挙区比例代表並立制導入の目的は、政権交代を可能にすることでした。でも、その意図とは異なり、1強支配型の議会を形成する非常にゆがんだ制度になりつつあります。このままでは、中選挙区制だった55年体制下よりもさらに強力な自民党支配が継続する可能性が高い。

 --「独裁」を生みやすい制度になりつつある?

 西崎 きちんとした対抗軸が形成されない限り、そうなっていく恐れがあります。そして、批判にさらされない政治は必ず腐敗や硬直化を生み出します。

 平野 小選挙区制は、基本的には反対意見があっても2位以下なら反映されない仕組みです。安倍首相も「選挙に勝って信任されたんだから」と、反対意見を考慮せず、自らの信じる道を突き進んでいく。実は彼の政治観や政治手法に絶妙にマッチした選挙制度です。

 萱野 制度導入時に比べ、今は国の財政状況が格段に悪化しているという背景が大きいと思います。当初は保守とリベラルという2大勢力をイメージしたはずですが、リベラルとされる民主党が「福祉を充実させる」と公約して政権を獲得したものの、財政赤字に直面して、公約を実現できなかった。リベラル政治って、お金がかかるんですよ。これは債務危機に見舞われた欧州も同じで、どの国も財政赤字がひどくて、リベラルな主張を掲げてもやれることは限られているから、すぐ壁にぶちあたる。フランスでも左派のオランド政権が行き詰まり、支持者が不満を募らせて反政府デモをしている状況です。

 平野 小選挙区制で「政策・政党で選ぶ時代が来た」と言われた反動なのか、有権者の人物を見る眼力が落ちているのではないかという気がする。今回はあまり目につきませんが、チルドレンがどーんと増えたり、強い支持を受けているわけでもない与党が圧勝してしまったりというのも、その表れでしょう。

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 ■人物略歴

 ◇かやの・としひと
 1970年愛知県生まれ。早大卒業後、フリーターを経て渡仏。パリ第10大学大学院哲学科博士課程修了。著書に「ナショナリズムは悪なのか」「国家とはなにか」など。

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 ■人物略歴

 ◇ひらの・けいいちろう
 1975年愛知県生まれ。京大卒。在学中の98年に「日蝕」でデビューし芥川賞受賞。「決壊」「ドーン」「透明な迷宮」「『生命力』の行方」など著書多数。

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 ■人物略歴

 ◇にしざき・ふみこ
 1959年宮城県生まれ。成蹊大教授を経て2012年から現職。専門は米国政治外交史。TBS系情報番組「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演中。
    --「特集ワイド:続報真相 衆院選座談会 与党圧勝に潜む危うさ 萱野稔人氏/平野啓一郎氏/西崎文子氏」、『毎日新聞』2014年12月19日(金)付。

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