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病院日記:「生活の時間が止まる」ということ


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まとまっていないから躊躇してましたが、twitterのまとめで恐縮ですが、これが8ヶ月仕事をした体験でもありますので、病院日記としての記録を残しておこうと思います。

看護助手として4月に神経内科から精神科(閉鎖病棟)に移動して、そのゆっくりずむには驚きました。ただゆっくりとはいえ、やるべき仕事はきちんとあるわけですけど、看護師が忙しい人数も多くないので、その中継的に、仕事の途中に患者さんの話に耳を傾けることが多くなりました。

「これ頼んでよ!」というものから人生談までーー。

で、驚くことばかり。

広告代理店の用意した都合のよい「物語」に回収されない、生活者のナラティヴを奪ってきたのが現在日本の20年の歴史と僕は考えているのですが、いわゆる10年、20年と閉鎖病棟に入院している方と話をすると、都合の良い「物語」から排除されたひとびとの肉声に驚いてしまう。
※で、現実に、病院へ「島送り」して隔離することが世界の潮流(脱施設化)と逆行していることは承知ですけど、中にいると、そこがある意味では、「生きることが苦しい」日本社会の現在からの「避難場所」になっていること、は否定し得ない事実なので、前否定論はここではいったん、横に置きますけどね。

さて……。
精神科閉鎖病棟へ閉じこめられた10年選手、20年選手と話していて、「え」と思って「ちぐはぐ」することがよくあるなあと最近気づきましたんですよ。そしてその「ちぐはぐ」を生むのが、隔離されるということ。

想像してみてくださいな。10年、20年間、数百平米の病棟から「出入り」できないということを。

で、その「ちぐはぐ」の違和感とは何かといえば、10年閉じこめられた患者さんでも、入院してからの10年、例えば、日本の首相がどう替わっていったかということは「知識」として頭のなかに入っている。テレビもあれば新聞もありますから。

しかし「生活の時間」は止まっている。

「生活の時間」が止まっている、とは何か。

その患者さんは、閉鎖空間に10年も20年も閉じこめられているが故に、自分の目で見て体験したふつーの生活世界は10年前、20年前の「光景」で止まっているということ。例えば具体的に言えば、JR新宿駅の話をしても、入院するまえの「JR新宿駅」で「止まっている」。いくら新聞やテレビで「知識」をアップデートしたとしても「止まっている」。

その「時」が止まっていることが、やりとりを交わすなかでの「ちぐはぐ」を生んでいる。

異質なものは「囲い込め」、文明国としてふさわしくない人品は「隠蔽」せよーー。
その封じ込めによって獲得されたのが、「ぼくらの国には問題は何もないっすよ」式の欺瞞に満ちた「先進国」という勲章という寸法。

「文化的生活の享受」云々は日本国憲法でも明言されているにも関わらず、隔離されることで、人間は「生きている時間」を止められてしまう。

ここに戦慄しなくてはならない。

異質なものを包摂し得ない、生-権力による人間の値打ちのレベル論の欺瞞をうち、社会包摂という意味での脱施設化こそ「人間が人間として人間らしく生きていく」ためには必要不可欠ということを実感する。しかし、その前に済ませて置かなければならないことがある。それは端的に言えば、自らの眼差しに根深く内在する「あいつら、きもい」みたいな眼差しを自覚して更新しながら、「避難所」を維持しつつ、社会をも変えていく必要性を感じている。

「あそこにあったお肉やさんのコロッケが美味しいかったのよ、食べたことある?」ってふられて、ええと、脳内でいったん、「ええと、あそこにあったお肉さん、パチンコ屋になりましたがな」と反芻してから、投げ返す言葉にあぐねている。

精神科に移動したあとに、神経内科の看護師にも、「ウジケさん、あそこって、まじ、大丈夫な世界っすかw」みたいな反応されて「え!!!」と我ながら引いたことがありましたけれども、中にいると、精神科ほど、言葉をきちんとつかわなければならない世界はない。
※事実、曖昧な応答はできないんですよ。

ほんと、思うのは、言葉を大切にしない人間は人間をも大切にしないのだなあ、と。


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