« 覚え書:「ひと:遠藤美幸さん 『戦場体験』を聞き続ける」、『朝日新聞』2015年01月14日(水)付。 | トップページ | 日記:非政治的政治性という不断の挑戦 »

覚え書:「創作の原点:戦後70年 俳優・仲代達矢さん、作家・柴崎友香さん」、『毎日新聞』2015年01月13日(火)付夕刊。

1


-----

創作の原点:戦後70年 俳優・仲代達矢さん、作家・柴崎友香さん
毎日新聞 2015年01月13日 東京夕刊

 第二次世界大戦が終わって今年で70年。あの戦争は創作者たちにどのような影響を及ぼし、また及ぼしていくのか。世代を超えて各ジャンルで活躍する人たちを通じて探っていく。

 ◇敗戦が役者の根源--俳優・仲代達矢さん(82)

 ◇戦争は日常の狂い--作家・柴崎友香さん(41)

 --戦後70年と聞いて、何を思いますか?

 仲代さん 70年、とりあえず戦争はなかった。総理大臣はクルクル代わりましたが、私はよかったと思っているんです。一つの強い権力で国を引っ張っていこうとしたら、戦争に巻き込まれていたかもしれないから。これから先、多少きな臭いので心配はしていますが。

 柴崎さん 70年間戦争をしなかったのは、本当によかったと思います。私が自分の小説で戦争に関することを書いてみようと思ったきっかけは、10年前の戦後60年です。私は1973年生まれで、生まれたころは戦後30年もたっていなかったと気付き、何かしらの形で戦争を書けるのではないかと考えたんです。

 仲代さん ある時若い俳優20人くらいに「戦争って聞いて何を思い浮かべる?」って聞いたら、一番多かった答えは「受験戦争」です。「第二次大戦」は一人もいなかった。

 しかし、柴崎さんの本を読むと、戦争を体験していないにもかかわらず、空襲でむちゃくちゃになった東京の街の描写が非常に上手で人間に対する観察も素晴らしい。特に『わたしがいなかった街で』を読んで、かつてこの街で戦争があったんだってことと、今の平和な静かな生活が、平行線をたどるような世界を描いているのには、感動しました。

 柴崎さん ありがとうございます。大学時代に地理を勉強していたんですが、戦後すぐに撮った空中写真を見た時、自分が暮らしている街が爆弾の穴だらけで衝撃を受けました。戦争は突然非日常になるのではなく、自分たちと同じように暮らしていた人たちの、その日常自体がだんだん狂っていくんじゃないか、と感じました。

 私たちと同じように生きていた人たちを、どうにかして実感したい。その実感がなければ戦争を扱った映画も小説も遠い悲劇として消費してしまうのではないでしょうか。

 仲代さん みんながそう考えてくださるといいんですが(笑い)。一緒に仕事をした黒沢明さん(映画監督)が遺言のようにおっしゃっていました。「人類が滅亡しない限り、人間が欲望を持っている限り、戦争はなくならないんだろうな」と。この国を守るためだけとなると戦争は起きる。

 柴崎さん 戦争についてのドキュメンタリーを見たり本を読んだりして、戦争は攻撃目的でなく「守るため」と言って始まるのだな、と私も感じます。一方で、戦争を体験された方のお話がなかなか伝わってきていないとも思います。

 仲代さん つらい体験は話したくないという思いがあるのでしょう。私は1945年5月、住んでいた東京の青山南町で空襲に遭い、近所の女の子と手をつないで逃げました。すると、手が突然軽くなった。彼女が焼夷(しょうい)弾を直接受けていたのです。数センチずれていたら私に当たっていたのですが。私はその子をきちんと葬ってやれなかったことをいまだに後悔しています。ああ今日は生き残った、明日も生き残れるのだろうか……その連続でしたね。

 柴崎さん 戦争体験者のお話を直接うかがうと、本で読むのとはまた違って、そこにいた人や生活を実感します。

 --映画や舞台で演じられる際、戦争体験の影響はありますか。

 仲代さん すごくありますね。敗戦の時は12歳で、国のために死ぬのが当たり前だと思っていた。ところが大人たちは敗戦を境に1日で親米派になった。強烈な不信感を持ちました。そのときのニヒルな感じが、役者になった根源となっています。だから負の役柄、世のあしき体制に抵抗するアウトローが好きです。

 あしき大戦への抵抗という意味では、足かけ4年かけた映画「人間の條件」があります。20代の時に参加した作品です。ある意味で反戦劇で、原作は五味川純平さんのベストセラー。私は主人公の梶を演じました。侵略した日本人が最後には悲惨な目に遭遇するという話ですが、名作は時空を超えて残る。今は、作り手側がエンターテインメント、どうやって面白くみせるか、に偏っている気がします。

 柴崎さん 近年の戦争に関する映画は、物語として分かりやすくなり過ぎているんじゃないか、と。戦争体験のある人がつくった作品は、関係性や価値観がとても複雑だと感じます。「人間の條件」は、9時間半もあるのに、実際の戦闘場面は1時間程度なんですよね。軍隊の不条理や絶望的な状況が描かれ、立場が逆転したり、戦争が終わったかどうかさえも分からないままさまよったり。善悪や被害者・加害者と割り切れない描き方に引き込まれました。もう一つ、強烈だったのは、飢餓、飢えの感覚です。

 仲代さん 戦争中も大変でしたが、戦後ですよ。5年以上は続いたと思います。日本全体が貧乏で飢餓状態でした。甘い物が欲しいと思うと歯磨き粉をなめたり、夢に見るのはいつも大福だったり。バナナを食べることができるなら死んでもいいと思いました。

 柴崎さん 現代からは想像できないすさまじい状況でしょうね。仲代さんの著書『未完。』でとても印象に残ったのは「これからは平等な時代だ」と意気揚々と話している先生たちが、給仕(用務員)をしていた仲代さんにコロッケを買ってくるよう頼んだのに、その買ってきてもらったコロッケを仲代さんには分けなかった話です。平等に希望をもちながら、すぐ側(そば)にいるおなかを空(す)かせた少年に思いが及ばない。

 仲代さん 人間の複雑性ですね。定時制高校に通いながら昼間は東京の中学校で給仕をしていたときの体験です。私が空腹なのはみんな知っていたはずですが。うらみがましく思ったりしましたね。

 --エンターテインメント性が求められるなか、柴崎さんは文学を通じて何をどう問いかけようとしていますか。

 柴崎さん 先に言いたいことがあってそのために戦争を題材として使うのではありませんし、戦争を体験した人の代弁者にはなれません。現在を生きている人間として、戦争をどうとらえることができるか、自分なりにやってゆくしかないと思っています。

 基本は人間に対する興味ですね。考えも行動も複雑な人間を知りたい。分かり合うというとつい考えを同じくすることと思いがちですが、むしろ違うからこそ面白いし、分からないからこそ知ろうとする。一人一人の人間への興味を忘れずにいることが、戦争を遠ざける最初の一歩ではないでしょうか。

 仲代さん 役者も同じですよ。人間を演じるわけですから、人間に興味を持たないと。芝居でも映画でもドラマでも、悪い奴(やつ)もいるが、その中に真実があることもある。負を持っている人間から真実をつかみ出す。一つの役をやるとき、この役は自分と同じ感覚を持っているなあ、しかしこの部分は違うなあと、そこは推理力でやる。

 --読者や観客の多くが戦争を知らない世代で、記憶の継承が課題になっています。

 仲代さん それでも人間は歴史を学びますし、想像力がありますから。そのために最期に、猛烈な反戦演劇なり、反戦映画を撮りたいですね。

 柴崎さん 小説にせよ映画にせよ、さまざまな表現の方法があります。見る人も、知らないからこそ知りたいし、映画も小説も想像力があるから成り立ちます。直接戦場を知らなくても、現在を生きる者として何かしら糸口はあるはずですし、戦争を考えることができると思っています。

 仲代さん 次世代は、何はともあれ戦争だけはやらない方がいい。「通常の軍事行為が取れないと、世界に相手にされなくなる」という人もいますが、いいじゃないですか。相手にされなくても。

 柴崎さん 「空気を読む」という言い方がありますが、空気を読み過ぎると、話し合いもできないし、何か一つのところに向かってしまいそうですね。

 仲代さん それが一番怖いですよね。【まとめ・鶴谷真、濱田元子】

==============

 ■人物略歴

 ◇なかだい・たつや

 1932年東京生まれ。52年俳優座養成所入所。56年「火の鳥」で映画本格デビュー。小林正樹監督「人間の條件」、黒沢明監督「用心棒」など巨匠作品の多くに主演。次代の俳優育成へ、75年に妻宮崎恭子さんと創立した「無名塾」は今年40周年。新入塾生募集中。芸術選奨文部大臣賞など受賞多数。2007年文化功労者。

==============

 ■人物略歴

 ◇しばさき・ともか

 1973年大阪市生まれ。大阪府立大で人文地理学を専攻し、機械メーカー勤務。2000年『きょうのできごと』でデビュー。07年『その街の今は』で織田作之助賞大賞、昨年『春の庭』で芥川賞を受賞。ある土地や建物の時間の蓄積を通し、人間同士の見えない縁を描き出すのを持ち味としている。
    --「創作の原点:戦後70年 俳優・仲代達矢さん、作家・柴崎友香さん」、『毎日新聞』2015年01月13日(火)付夕刊。

-----


[http://mainichi.jp/shimen/news/20150113dde018040019000c.html:title]


11

Resize0858


未完。 仲代達矢
未完。 仲代達矢
posted with amazlet at 15.01.18
仲代 達矢
KADOKAWA/角川マガジンズ
売り上げランキング: 226,633


その街の今は (新潮文庫)
柴崎 友香
新潮社
売り上げランキング: 18,010


|

« 覚え書:「ひと:遠藤美幸さん 『戦場体験』を聞き続ける」、『朝日新聞』2015年01月14日(水)付。 | トップページ | 日記:非政治的政治性という不断の挑戦 »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

I think other web site proprietors should take this web site as an model, very clean and great user friendly style and design, as well as the content. You’re an expert in this topic!
Irwin http://flummer32.jigsy.com/entries/general/treatment-for-drop-foot

投稿: Irwin | 2015年2月15日 (日) 11時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/58623274

この記事へのトラックバック一覧です: 覚え書:「創作の原点:戦後70年 俳優・仲代達矢さん、作家・柴崎友香さん」、『毎日新聞』2015年01月13日(火)付夕刊。:

« 覚え書:「ひと:遠藤美幸さん 『戦場体験』を聞き続ける」、『朝日新聞』2015年01月14日(水)付。 | トップページ | 日記:非政治的政治性という不断の挑戦 »