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日記:「ピケティのメッセージは、格差を放置せず、平等へ向けた格差縮小の力を創出すること」なのに「格差はあって当然」とすり替えていく連中

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 そうしたピケティの主張に励まされつつも、一方で、日本社会では、この主張は「格差拡大は自然の理なのだから、あって当たり前」という歪んだ論理に捻じ曲げられ、現状の放置に逆用されかねない、という不安が募ってきました。
 日本では、格差の極端な拡大が社会や経済に及ぼす深刻なマイナス面について、十分に理解が共有されていません。「格差の何が悪い」「人間に格差はつきもの」という言葉が横行し、06年の国会答弁で小泉純一郎首相が「貧困層を少なくするという対策とともに、成功者をねたむ風潮、能力のある者の足を引っ張る風潮も厳に慎んでいかなければいけない」と述べるなど、政権のトップまでもが格差批判と「そねみ」を混同してしまうのが現状です。
 しかも、日本社会では弱い立場の人たちの力になるはずの考え方が外からやってくると、その過程で異なる定義にすり替えられ、強者に有利なものに逆用されることがしばしば起きています。たとえば「ワークシェアリング」は、発祥の地、欧州では「働き手が仕事を分け合って失業を防ぐ」という意味でした。それが2000年前後、経営者団体の主導で日本に流布されたときは、「会社が賃下げして雇用を確保する」にすり替えられてしまいました。そこでは「仕事を分けるため」として、同じような仕事でも賃金が正社員の半分程度というパート労働者を増やすことが奨励されました。その結果、「仕事を分け合う」という働き手の連帯を指す言葉は、ただの賃下げに置きかえられてしまったのでした。
 ピケティ・ブームでもその恐れはあります。ピケティのメッセージは、格差を放置せず、平等へ向けた格差縮小の力を創出することこそが人類の智恵の発揮のしどころ、というものです。それが、「格差あって当然」にすり替えられていくことはないでしょうか。
    --竹信三恵子『ピケティ入門 「21世紀の資本」の読み方』金曜日、2014年、5-6頁。

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ちょうど竹信三恵子『ピケティ入門 「21世紀の資本」の読み方』(金曜日)を読み終えた著者は、労働・貧困問題を記者として30年以上担当してきた経験から「『21世紀の資本』の読み方」をえぐりだすというもの。著者の「読み方」はピケティの主張を正確に受容するものであり、誤った受容を慎重に退けていかなければいけないという筋を通すものでもある。

すなわち慎重に退けなければならないのは「この主張は『格差拡大は自然の理なのだから、あって当たり前』という歪んだ論理」にねじ曲げられる受容の日本的歪曲ということ。

ピケティは「格差は放置すれば広がる」と主張しましたが、これは「現状を変えたくない人」が「『格差は自然に縮小する』という都合のいい理屈」に落ち着くものでもありませんし、否、「数字による実証で対抗しようとした試み」と竹信さんは評価する。

そのために必要なことは何か。「目くらましを見抜く」ことだと竹信さんは何度も説く。しかもこのことは、不平等だけに限定されない話であり、いわば権力によって「都合よく動員」されることを不断に排していかなければなりません。

しかし、早速来ましたねえ。

『読売新聞』さん、社説にて「ピケティ現象 格差拡大は資本主義の宿命」と題して、ピケティが格差拡大を放置してはいけないというその主張を早速、換骨奪胎!!!


「成長の恩恵を受ける富裕層と、取り残される低・中間所得層という単純な図式を掲げ、バラマキ策を唱えるのは無責任だ。教育や職業訓練の充実など、努力すれば所得を向上できる機会を広げる政策にこそ、力を注ぐべきである」と社説を結びますが、まさに権力馴致の優等生の模範解答となっております。

要するに、努力しても報われない社会なのに「努力すれば何とかなる」って喧伝して「一に我慢、二に我慢、……」っていうのが今の日本社会なんでしょうねえ。

ぐぬぬ。


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ピケティ現象 格差拡大は資本主義の宿命か
2015年01月26日

 資本主義経済の下では貧富の格差が拡大を続ける宿命にあるのか。

 フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が著書「21世紀の資本」で提唱した理論を巡り、世界で活発な論議が巻き起こっている。

 「ピケティ現象」とも言われるブームに火が付いたのは、一握りの経営者の巨額報酬など格差問題が深刻化した米国だ。分厚い学術書にもかかわらず、世界で100万部のベストセラーとなった。

 欧米を中心に200年以上の税務統計を分析したところ、株式や不動産などの資産から得られる利益の伸びが、賃金上昇率を上回っていたことが分かったという。

 ピケティ氏はこうしたデータを根拠に、将来にわたって資産家への富の集中が続き、貧富の差は拡大していくと結論付けた。

 確かに、著書に掲載された多くの図表からは、不平等が広がっていく傾向が見て取れる。

 経済発展とともに格差は解消するという、経済学で主流の説を覆す内容が、学界をはじめ各方面に一石を投じた意義は大きい。

 一方で、自説を裏付けるために都合のいいデータを選んでいる、といった指摘もされている。

 資本主義国で格差が際限なく広がるメカニズムの論理的な説明はできるのか。他の指標を用いても同じ結論が得られるのか。

 企業や個人の自由な行動と公正な競争を重んじる資本主義経済の在り方に関わる問題提起だけに、多角的な検証が求められよう。

 ピケティ氏の主張で疑問なのは、格差解消の処方箋として、富裕層に対する世界的な資産課税強化を提唱していることである。

 税負担の軽い国や地域に資産が逃避するのを防ぐ狙いだろうが、各国が一斉に増税で歩調を合わせることは、政治的にも実務的にも、ほとんど不可能だ。

 そもそも、報酬が従業員の数百倍の経営者も珍しくない米国より日本の格差は小さいなど、国によって状況は大きく異なる。税制を同列に論じるのは無理がある。

 富裕層に重税を課すことは、働く意欲をそぎ、成長を鈍化させる要因になりかねない。

 ピケティ説に乗じ、過剰な所得再分配を求める声が、日本でも強まってきたのは気がかりだ。

 成長の恩恵を受ける富裕層と、取り残される低・中間所得層という単純な図式を掲げ、バラマキ策を唱えるのは無責任だ。教育や職業訓練の充実など、努力すれば所得を向上できる機会を広げる政策にこそ、力を注ぐべきである。
    --「社説:ピケティ現象 格差拡大は資本主義の宿命か」、『讀賣新聞』2015年01月26日(月)付。

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[http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150125-OYT1T50131.html?utm_content=buffera6092&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer&from=tw:title]


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