覚え書:「おんなのしんぶん・加藤登紀子:Tokiko’s Kiss 対談 加藤登紀子×姜尚中 9条変えるともうからない」、『毎日新聞』2015年02月02日(月)付。
-----
おんなのしんぶん・加藤登紀子:Tokiko’s Kiss 対談 加藤登紀子×姜尚中 9条変えるともうからない
毎日新聞 2015年02月02日 東京朝刊
拡大写真
今回の「Tokiko’sKiss」のゲストは、政治学者の姜尚中さんです。長年、国際政治やナショナリズムについて研究を続けてきた姜さん。「愛国」や「憲法9条」というキーワードを軸に国際社会における日本のあり方を考えながら、人々の生き方について、加藤さんと共に考えました。【構成・吉永磨美、写真・宮間俊樹】
加藤 2006年に出版された著書「愛国の作法」ですが、時代を先駆け、鋭い視点で書いてらっしゃいますね。
姜 当時、「愛国」という言葉に、自己肯定的な雰囲気が立ち込め始めたのを感じて書きました。僕たちの世代は国とか民族とか、ナショナリズムについて、それ自体を否定するような勢いで、今まで過ごしてきたところがありますよね。
加藤 そうですね。国や民族の違いを超えて結びついていけることを夢見てきました。それなので、第二次世界大戦当時にあった「最後の一人まで戦う」という考えや「国のために命をささげることが美徳である」といった感覚には違和感を感じますね。
姜 美徳化して神がかり的なものが流布する。それに対して、少しでも批判をすると、「反日」と言われてしまう。自愛の精神があまりにも強すぎると、人々はナルシシズム的に突っ走ってしまうんですね。第二次世界大戦で、それがもたらす巨大な犠牲が生まれたわけです。
今も「戦前を奪還したい。敗戦を消し去りたい」と。「新・富国強兵」と言っているんですが、「平和はいいから、少し繁栄がほしい」という空気になっているのが残念ですね。愛国風の言葉を特定の人たちの「専売特許」にしてはいけないと思うのです。
加藤 戦後70年。日本という国を築いてきた生活者が、国を守る気持ちについて語らないといけないんでしょうね。私は、家族を守り、暮らしとコミュニティーを崩壊させないために努力していくことが「愛国の作法」だと思っています。
◇戦争しない国
加藤 今年は戦後70年でもありますが、日韓基本条約締結から50年でもあります。
姜 その両国で、「愛国」という言葉が盛んに取りざたされています。日本が「愛国」のもと、韓国や中国ともめていくのは、経済の論理からみて割に合わないと考えます。
加藤 仕事で海外へ行くと、「日本人は好かれている」と感じることが多いんです。戦後、憲法9条があって、戦争に加担しない国だという保証もありましたから。経済的にも信用を得て、国際社会の仲間入りを果たしたところもある。経済的な側面から見たら、平和ほどありがたいものはないんですね。経済界が「平和を守る」「9条を守る」というリーダーシップをもっと発揮してもいいんじゃないかと思っています。
姜 割に合わない愛国主義は、いつかは無理が出てくる。「憲法9条を変えると、もうからないよ」と経済人が言ってくれればいいんですが。
◇平凡のすすめ
姜 加藤さんの歌う「琵琶湖周航の歌」が好きです。聴くと、ほろりとしますね。
加藤 歌を歌う時は、聴衆の95%くらいは、心が通じ合えると思っているんです。世の中は、家族を大事にして、ちゃんと幸せに生きたいと思う人たちばかり。そんなに人と人の間に差はないですし。
姜 そんなに違いはなくて、多くは、平凡な人々です。最近、周りに「平凡のすすめ」ということを言っています。平凡な人ほど、実はたくましく生きているのではないかと思っていて。
加藤 それ、いいなあ。
姜 どうして、平凡であることを嫌う人が多いのでしょう? 久しく、世の中では「オンリーワンになれ」と言われてきましたが、「もう、いいんじゃないか」と思っています。若い人の中には、自分だけがオンリーワンになれなくて苦しむ人もいる。他とはちがう何かがあるかと探してみても、そうではなくて悩んでしまうんですね。平凡でも、自分らしく生きればいいんです。「ひきょうであっても、連綿として生きる」ということが、最も人間的な生き方かもしれない。若い人には、「生きて生きて生き延びなさい」と伝えていきたい。
加藤 互いに持っているものを認めて、「わたしはこれでいいでしょ」ってわかり合えることが一番ですね。
==============
■人物略歴
◇カン・サンジュン
政治学者。熊本市生まれ。国際基督教大学準教授、東京大大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、2014年に聖学院大学学長に就任。著書は「愛国の作法」(朝日新聞出版)、「ナショナリズム」(岩波書店)、「心」(集英社)など多数。64歳。
--「おんなのしんぶん・加藤登紀子:Tokiko’s Kiss 対談 加藤登紀子×姜尚中 9条変えるともうからない」、『毎日新聞』2015年02月02日(月)付。
-----
[http://mainichi.jp/shimen/news/20150202ddm014070047000c.html:title]
| 固定リンク
« 日記:人間への無関心が他者の痛みへの鈍感さへ連動するのは決して過去だけの話ではない | トップページ | 覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 課題解決は体で学ぶ=湯浅誠」、『毎日新聞』2015年02月04日(水)付。 »
「覚え書」カテゴリの記事
- 覚え書:「あの人に迫る:六車由実 介護民俗学者 人生の豊かさを聞き書きで知る」、『東京新聞』2015年03月22日(日)付。(2015.04.03)
- 覚え書:「野坂昭如の『七転び八起き』 第200回『思考停止』70年 命の危機 敗戦から学べ」、『毎日新聞』2015年03月24日(火)付。(2015.04.01)
- 覚え書:「特集ワイド:続報真相 戦意発揚スローガン『八紘一宇』国会発言 問題視されない怖さ」、『毎日新聞』2015年03月27日(金)付夕刊。(2015.03.30)
- 覚え書:「松尾貴史のちょっと違和感 『八紘一宇』持ち上げる与党銀 言葉のチョイスは生命線では」、『毎日新聞』2015年03月22日(日)付日曜版(日曜くらぶ)。(2015.03.28)
- 覚え書:「こちら特報部 侵略戦争を正当化 八紘一宇国会質問」、『東京新聞』2015年03月19日(土)付。(2015.03.22)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント