« 日記:如何なる境遇に在りても、天に事へ人に仕へる機会は潤澤に恵まれている」 | トップページ | 拙文:「読書 小川仁志、萱野稔人『闘うための哲学書』講談社 思索の言葉めぐる対談集」、『聖教新聞』2015年02月28日(土)付。 »

覚え書:「特集ワイド:見過ごせない!安倍首相のヤジ」。『毎日新聞』2015年02月26日(木)付夕刊。


001


-----


特集ワイド:見過ごせない!安倍首相のヤジ

毎日新聞 2015年02月26日 東京夕刊
(写真キャプション)衆院予算委で質問を聞く安倍首相。この日午前、安倍首相はヤジや答弁内容を訂正した=2015年2月23日、藤井太郎撮影


 国民のリーダーたる首相が国会論戦で「日教組!」などとヤジを飛ばし、しかも事実誤認で、後日訂正と謝罪--。安倍晋三首相のヤジ問題は西川公也前農相の献金疑惑と辞任騒動の陰に隠れてしまったかのようだが、実は重大かつ深刻な問題なのではないか。識者たちに聞いた。

 ◇国会に「ネトウヨ」的言論--安田浩一さん(ジャーナリスト)

 安倍首相が「日教組、日教組!」と連呼するのを見て、「ネット右翼(ネトウヨ)」と呼ばれる人たちが好んで使う罵倒の言葉を思わず連想しました。

 ネトウヨの人たちやヘイトスピーチに参加する人たちの世界では、特定の相手を敵と認定し、皆で攻撃するための負のキーワードが存在します。それが「反日」「売国奴」「在日」などです。「日教組」もそんなキーワードの一つです。私自身、彼らから関係もないのに「日教組」と言われたことがあります。そう口にするだけで相手の言論を封じ込め、問答無用でおとしめ、自らが優位に立てると、彼らは信じているのです。

 安倍首相は西川前農相の献金問題を追及する民主党議員に対し、唐突に「日教組!」とヤジを放った。それで相手をたじろがすことができると考えたのなら、ネトウヨ的発想に近いものを感じます。

 ある選挙中、首相が秋葉原で演説するのを見たことがあります。日の丸の小旗を持った支持者たちが最も熱狂したのは、首相が日教組とマスコミを批判した時でした。「日教組」と言えば多くの人の共感を得られると思っているのかもしれません。

 今、社会では、相手を敵か味方かに分け、敵と認定すれば皆で寄ってたかってたたく風潮が広まっています。「反日」「売国奴」など、何の議論も対話も成立しないような根拠のない罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせかける風潮もあります。

 今回はそれがとうとう、国会の議論の場にまで持ち込まれてしまった。まして一国の首相の手によって。そのことが最大の問題ではないでしょうか。【聞き手・小国綾子】

 ◇マスコミよ、もっと怒れ--吉永みち子さん(作家)

 ちょっと失礼ですが、言わせていただきますよ。あのやりとり、大人じゃない。安倍さん、野党の批判は批判として粛々と受け止めればいいのに、なぜそれができないのでしょうか。批判があってこそ議論が生まれ、物事がより良くなっていくはずなのですが。

 歯がゆいのは「首相の品格」の問題に矮小(わいしょう)化されてしまったこと。本当なら、政治とカネの問題をとことん突き詰めるべき場面だったのに。これは民主党もだらしないよ。安倍さんがヤジった時点で「総理、それはどういう意味ですか」と、逆に民主党側の土俵に引きずりこむ好機だったのに、ストレートに怒っちゃった。やり方が稚拙です。

 この問題を大きく報じているのは一部の新聞です。安倍政権の広報紙みたいな新聞は当然として、テレビもあまり取り上げない。私が心配するのはそんな今の日本の空気感です。

 このヤジ騒動、ニュース番組やワイドショーのおいしいネタのはずですよ。民主党政権時代、原発事故を巡る閣僚の失言がありましたが、どこも特集組んで放送していたじゃない。イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の事件でも、政府対応が正しかったのか検証が必要なのに、それを言うと、なぜか「テロに屈する」などと言い出す。議論のすり替えなのに、みんな黙っている。安倍政権からクレームがくるのが怖いのでしょうか。

 なぜ戦前の日本人は政府・軍部の愚かな暴走を許したのか、不思議でしょうがなかったんです。でも今の日本を見ていて「ああ、そういうことだったのか」と得心します。杞憂(きゆう)に終わればよいのですが。【聞き手・吉井理記】

 ◇昔なら内閣が吹っ飛んだ--森田実さん(政治評論家)

 安倍首相の言動に、1953年2月の衆院予算委員会を思い浮かべた。右派社会党の議員の質問に当時の吉田茂首相が小声でつぶやいた「バカヤロー」という言葉を偶然マイクが拾った。懲罰動議が可決され、さらに内閣不信任案の可決に発展、いわゆる「バカヤロー解散」の引き金となった。

 首相の発言はそれほど重いということだが、今回は面と向かって、しかも事実誤認であり、より悪質だ。本来は内閣が倒れるような問題なのに、直後に起きた西川前農相の辞任問題に世間の視線は向いてしまった。

 首相がヤジで言及した日教組の組織率は既に2割台だ。そんな組織への敵がい心に凝り固まっているとすれば、あまりに古い思考と言わざるを得ない。国会で政府を点検するという正当な行為を首相自らが妨害するのを許せば、行き着く先は弾圧だ。

 感情を抑制できず表に出してしまったことも問題だ。むきになる姿勢は国内政治に限らず外交的にもマイナス。それでなくても関係良好とは言えない中国や韓国が、敵がい心が強く感情的な首相の言動を信用するだろうか。

 一方、民主党の対応は残念だ。次の質問者が直ちに取り上げるといった臨機応変さが必要だった。首相への懲罰動議も提出すべきだ。国民と政治を結ぶという議会人としての自覚がもっと欲しい。

 「高慢は常に破滅の一歩手前にあらわれる。高慢になる人はもう勝負に負けている」とはスイスの思想家ヒルティの言葉だ。民主党議員を見下した首相の姿勢が目に付く。だが、それは自ら終えんに近づいているということだ。【聞き手・庄司哲也】

==============

 <安倍首相ヤジ問題の経緯>

 19日の衆院予算委員会で民主党議員が西川氏の献金問題を取り上げた際、安倍首相が「日教組(日本教職員組合)はやっているよ。日教組どうするの」と閣僚席からヤジを飛ばした。首相は20日の同委でも「日教組は(国から)補助金をもらい、(日教組関連団体の日本)教育会館から献金をもらっている民主党議員がいる」と主張。だが、日教組が国から補助金を受けた事実はなく、民主党議員が日本教育会館から献金を受けたこともなかった。首相は23日、同委で「私の記憶違い」「遺憾で、訂正する」と発言を撤回、陳謝した。ただ同日も民主党議員の名を挙げ「日教組からダイレクトに献金をもらっていた」などと批判を続けた。

==============

 ■人物略歴
 ◇やすだ・こういち

 1964年生まれ。「ネットと愛国 在特会の『闇』を追いかけて」で講談社ノンフィクション賞。

==============

 ■人物略歴
 ◇よしなが・みちこ

 1950年生まれ。競馬新聞記者を経て85年、「気がつけば騎手の女房」で大宅壮一ノンフィクション賞。

==============

 ■人物略歴
 ◇もりた・みのる

 1932年生まれ。日本評論社出版部長などを経て独立。近著に「森田実の一期一縁」(第三文明社)。
    --「特集ワイド:見過ごせない!安倍首相のヤジ」。『毎日新聞』2015年02月26日(木)付夕刊。

-----


[http://mainichi.jp/shimen/news/m20150226dde012010002000c.html:title]


001x

Resize1369

|

« 日記:如何なる境遇に在りても、天に事へ人に仕へる機会は潤澤に恵まれている」 | トップページ | 拙文:「読書 小川仁志、萱野稔人『闘うための哲学書』講談社 思索の言葉めぐる対談集」、『聖教新聞』2015年02月28日(土)付。 »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 覚え書:「特集ワイド:見過ごせない!安倍首相のヤジ」。『毎日新聞』2015年02月26日(木)付夕刊。:

« 日記:如何なる境遇に在りても、天に事へ人に仕へる機会は潤澤に恵まれている」 | トップページ | 拙文:「読書 小川仁志、萱野稔人『闘うための哲学書』講談社 思索の言葉めぐる対談集」、『聖教新聞』2015年02月28日(土)付。 »