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覚え書:「こちら特報部 はびこる『無知の無恥』」、『東京新聞』2015年03月07日(土)付。


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こちら特報部
はびこる「無知の無恥」

 昔から「知らないことを恥じるな」という。知ったかぶりをするより、謙虚に学ぶことが大切という意味だ。しかし、もし「謙虚に学ぶ」という暗黙の了解がなくなれば、ただの恥知らずになる。最近、そうした「無知の無恥」が目に余るように思える。それも権力の中枢、周辺で横行している。「反知性主義」という言葉が流行しているが、現実はさらにその一歩先を進んではいないか。(榊原崇仁、沢田千秋)


4つのケースで検証
補助金問題や人種隔離論争
開き直る首相や識者

●実例1
 「知らなかった」と恥じるのではなく、開き直る異様な光景が国会で続いていた。与野党に広がる補助金に絡む政治資金問題だ。
 政治資金規正法では、国から補助金をもらう企業は交付決定から一年間、政治活動に寄付できない。
 だが、複数の国会議員たちはこうした寄付を受けていた。ただ、政治家は企業への補助金の交付決定を知らなければ、罪に問われない。「法の不備」だ。
 不備である以上、違法性はなくても、倫理的には頭を下げるのが当然だ。しかし、安倍首相は先日二十七日の衆院予算委員会で「知らなければ違法行為ではないということは法律に明記されており、違法行為ではないことは明らか」と問題視しない姿勢を示した。
 政治資金に詳しい神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は「問題は違法性だけではない。補助金の一部が寄付されたと考えられる。補助金の元は税金だ。企業には自らに利益を誘導するため、政治家側に寄付しているのだろうが、その原資に税金が使われることが許されるのか」と憤る。
 首相は今月三日までに、三社から同様の寄付金計百八十四万円を受けていたことが判明。首相は「国からの補助金については知らなかった」と釈明した。
 だが、第一次政権当時も首相が代表を務めていた自民党支部に対し、国の補助金を受けた山口県の企業から五十万円の献金があったことが指摘されている。

●実例2
 「知らない」で済ます姿勢は、安倍首相に近い有識者にも見られる。十三年十月まで安倍政権の教育再生実行会議の委員だった作家の曽野綾子氏もそうだ。
 同氏は移民政策に関連して、産経新聞のコラムで「二十~三十年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」と持論を展開した。
 これに対し、南アフリカの駐日大使やNPO法人「アフリカ日本協議会」(東京)などは、国際的に非難を浴びた同国のアパルトヘイト(人種隔離)を擁護する記述だと非難した。
 しかし、曽野氏は「飛躍した発想。そう考える人たちの悪意」などと反論。民放のラジオで「アパルトヘイトの問題は何か」と問われると、「全く分からない。見たこともない。私が行ったころには(アパルトヘイトは)もう崩れていた」と無知を決め込んだ。
 曽野氏が初めて南アフリカを訪れたのは「まだ人種差別が色濃く残っていた時期。人種ごとの居住区も多くあった。黒人の人びとに選挙権が与えられたのも、九四年のことだ」と再批判している。


行き着く先 国際的孤立
改憲、文民統制でも…
主張を通す方便

●実例3
 会見をめぐる動きの中でも「無知」はうごめく。
 自民党憲法改正推進本部の礒崎陽輔事務局長(参議院議員)は一二年、憲法によって権力を縛る「立憲主義」について「この言葉は学生時代の憲法講義では聴いたことがない。昔からある学説なのか」と自身のツイッターに書き込んだ。
 礒崎氏は一九八二年に東大法学部を卒業。同時期に同じ学部を卒業した護憲派の伊藤真弁護士は「授業で立憲主義に触れることはあまりなくても、それは基本的なことだったから。そもそも明治憲法制定時にもあった原則。勉強してなかったのだろう」と皮肉る。
 むしろ、伊藤弁護士は「知らないふりをして立憲主義を軽く扱おうとしているのでは」と疑う。というのも、礒崎氏の現行憲法を軽んじる姿勢は最近の言動からもうかがえるからだ。
 例えば、先月二十一日に盛岡市内であった自民党の会合。礒崎氏は「改憲を国民に一回味わったもらおう。『怖いものではない』となったら、二回目以降は難しいことをやっていこうと思う」と語っている。

●実例4
 最新の「無知」は、六日に閣議決定された「文官統制」を廃止する防衛省設置法改正案にまつわる。
 文官統制は文民統制(シビリアンコントロール)の一形態で、防衛省で大臣を支える背広組(文官)が自衛隊の制服組より優位にあることを意味する。
 中谷元防衛相は先月二十七日の会見で「文官統制の規定は軍部が暴走した戦前の反省から作られたのか」と問われ、「その辺は私、その後生まれたわけで、当時、どういう趣旨かは分からない」と発言した。
 本当なのか。中谷防衛相は五七年十月生まれの五十七歳。誕生した後も、文民統制の成立については、しばしば語られてきた。
 例えば、七〇年4月の衆院本会議で、佐藤栄作首相(当時)は「自衛隊は政治優先のシビリアンコントロールが貫かれ、その背景には戦前の苦い経験があることを忘れてはならない」と答弁。七三年十二月の衆院建設委員会では、大村襄治官房副長官(同)が「(文民統制を意味する)憲法六六条は、国の政治が武断政治に陥ることを防ぐ目的で・・・」と明言している。
 首都大学東京の木村草太准教授(憲法)は「軍国主義の反省に立ち、憲法九条ができ、軍人が閣僚にならないように六六条ができた。生年月日にかかわらない常識だ」と切り捨てた。

「何でもあり」まん延
 こうした「無知」を恥じない発言の横行について、上智大の中野晃一教授(政治学)は「古代ギリシャの哲学者プラトンは『知識がない人間の統治は不正義』と言った」と批判する。
 中野教授は今日の事態は小泉純一郎首相から始まったと指摘する。小泉氏は二〇〇三年、自衛隊のイラク派遣を非戦闘地域に限定することに絡んで、「どこが戦闘地域か、私に聞かれたって分かるわけがない」と開き直った。
 「辞任に追い込まれても全くおかしくない暴言だったのに結局、許されてしまった。小泉氏は従来、支配的だった建前の政治をバカにし、『そんなことを知らなくて何が悪い』とタブーを破るポーズで改革者を装って、大衆の支持を集めた」(中野教授)
 この手法が第三次安倍政権下の今日まで続いているという。ただ、この劇薬的な手法は副作用を伴う。
 中野教授は「事態は政治の枠にとどまらない。首相や有名人の無知や差別的発言がまかり通れば、国民にも何でもありの雰囲気がはびこる」とし、「国民は知性を守る戦いを挑まれている」と警鐘を鳴らす。
 放置すれば、待っているのは日本の国際的な孤立だという。「立憲主義への無知やアパルトヘイトの肯定は、人類が打ち立ててきた原理原則や英知に対する挑戦だ。生ぬるい態度をとっていると、日本だけが世界からどんどん外れていき、孤立するだろう」
【デスクメモ】「知らなかった」と近い言葉に「想定外」がある。それがどういう惨劇を生んだのか。私たちは四年前に学んだ。ただ、その責任は先の戦争と同様、あいまいにされた。現政権の無知はそれらの延長線上にある。「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として。二度目は喜劇として」。三度目には破滅が待っている。(牧) 
    --「こちら特報部 はびこる『無知の無恥』」、『東京新聞』2015年03月07日(土)付。

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