拙文

拙文:「読書 大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』筑摩選書 連帯と共生への可能性を開く」、『聖教新聞』2015年03月28日(土)付。


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読書
希望の思想 プラグマティズム入門
大賀祐樹 著

連帯と共生への可能性を開く

 現代思想の諸潮流の中でプラグマティズムほど不当な扱いを受けたものはない。実用主義の訳語は早計すぎて“浅い”という印象をあたえる。著者はパース、ジェイムズ、デューイといった源流からクワイン、ローティといった最前線までを俯瞰し、「希望の思想」としての魅力を取り戻す。連帯と共生を探るその可能性は、閉塞した現代に風穴を開ける光明だ。
 プラグマティズムとは「相容れない『信念』をもち、対立し合う人びとが、そうした相剋を乗り越えて連帯し、一つの『大きなコミュニティ』を形成するための指針であり、共生を可能ならしめる」思想のこと。ある概念を前もって確定させることはできないが、「その概念がいかなる帰結を生むのかを考察し、実際に何が生じたかを観察することは可能である」という格率から出発し、世界を認識しようとする。
 歴史を参照すれば、哲学的概念や宗教的信念は先験的に常に正しい訳ではない。その事実を踏まえるなら、人間社会に役立つ限り「暫定的」に正しいと認め、相互承認して生きるほかない。
 さまざまな価値観をもつ人々が同じ社会で生活すれば、唯一の正しさをめぐり摩擦を生まざるを得ない。しかし正しさをあらかじめ設定できない以上、「暫定的」すり合わせが不可欠だ。
 排他的言動があふれ、憎悪の信念対決が激しさを増す現代。プラグマティズムの示す“他者と共に生きる流儀”を身につける必要がある。(氏)
●筑摩選書・1620円
    --「読書 大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』筑摩選書 連帯と共生への可能性を開く」、『聖教新聞』2015年03月28日(土)付。

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希望の思想 プラグマティズム入門 (筑摩選書)
大賀 祐樹
筑摩書房
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拙文:「読書 小川仁志、萱野稔人『闘うための哲学書』講談社 思索の言葉めぐる対談集」、『聖教新聞』2015年02月28日(土)付。

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読書
闘うための哲学書
小川仁志、萱野稔人 著

思索の言葉めぐる対談集

 プラトンやデカルトといった古典的著作からフーコーやロールズなど思想史を刷新する現代の名著まで22冊の哲学書を取り上げ、気鋭の哲学者2人が、その魅力を縦横に語った対談集である。
 哲学とは何か--。それは「ものごとの本質を批判的、根源的に探究していく学問」(小川仁志)のことであり、具体的には「言葉を使って探究する」(萱野稔人)人間にとって最も身近な営みだ。哲学とはこんなにも面白いものかと驚かされる。哲学と聞けば難しそうな学問だとか、生活に関係ないと思い込む人にこそ手にとってほしい。
 本書の魅力は、2人の対談者がそれぞれ理想主義者(小川)、現実主義者(萱野)と対照することだろう。人間をめぐり、理想主義は現実の超克を展望し、現実主義は人間存在の条件に注目する。一冊のテキストに関する2人の議論は、一つの解釈に収まりきらない“英知の魅力”を召喚する。
 「哲学を学ぶことはできない、哲学することを学びうるだけである」とはカントの言葉だが、本書はその実践といってよい。思索の言葉と向き合い、自らの考え方を鍛えることで、“今、闘う”ことが可能になる。(氏)
●講談社現代新書・1080円
    --「読書 小川仁志、萱野稔人『闘うための哲学書』講談社 思索の言葉めぐる対談集」、『聖教新聞』2015年02月28日(土)付。

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闘うための哲学書 (講談社現代新書)
講談社 (2014-12-26)
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拙文:「書評 伊藤貴雄『ショーペンハウアー 兵役拒否の哲学 戦争・法・国家』(晃洋書房)」、『第三文明』第三文明社、2015年3月、92頁。

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書評
『ショーペンハウアー 兵役拒否の哲学 戦争・法・国家』
伊藤貴雄著
晃洋書房 本体4,100円+税

今読むべき、国家の論理をしなやかに撃つショーペンハウアー

 近代西洋の哲学史においてショーペンハウアーほど不当な誤解を受けた哲学者は稀であろう。本書は、その思索の出発から主著へ至る道筋を丹念に辿ることで、常に付きまとうペシミズムの反動的な非合理主義者といったイメージを一新する。そこには、陰鬱な印象とは裏腹に、時代精神と真っ向から対決した青年哲学者の姿が浮かび上がる。著者は時代精神と格闘したショーペンハウアーの翠点を「兵役義務という国民国家イデオロギーとの対決」というその社会哲学に見いだす。
 ショーペンハウアーの生きた時代はポストフランス革命の混乱期であり、それは国民国家の創業時でもある。第一著作『根拠律』を刊行した一八一三年、プロイセンでは対仏解放戦争が始まり、一般兵役義務制が導入された。ドイツ観念論の雄・フィヒテは国家に個人の完成を見て「国家によって個人の権利を基礎づける」全体性優先の立場を打ち出すが、国家を絶対視する眼差しこそ人間を秩序づける危うさではないかと見抜いたショーペンハウアーは、「個人の権利によって国家を基礎づける」個体優先の立場を志向する。国家の役割は徳の実現という積極性ではなく、苦痛の軽減という消極さにしかないのだ。徴兵を呼びかける側に立つフィヒテと、強制される側のショーペンハウアーは対照的である。「私の祖国はドイツよりももっと大きい」。
 著者の論考は、全体性優位の国民主義とは異なる個体性優先の公共哲学としてのショーペンハウアーのアクチュアリティを浮き彫りにする。無関心とは同義ではないショーペンハウアーの消極的な非政治的態度がより政治的な批判として鋭く機能することには驚くほか無い。国家の自明性に疑義が呈されて久しいが、翻って現代日本に注目するとどこ吹く風で、声高に国家への忠誠を強要しようという論調がもてはやされている。全体への回収の虚偽をしなやかに撃つ本書は、その超克のヒントに満ち溢れている。仮象を撃つために超越を持ち出す必要ない。自ら考えぬくことだ。思想史刷新する名著の誕生である。
(東洋哲学研究所委嘱研究員 氏家 法雄)
    --「書評 伊藤貴雄『ショーペンハウアー 兵役拒否の哲学 戦争・法・国家』(晃洋書房)」、『第三文明』第三文明社、2015年3月、92頁。

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ショーペンハウアー 兵役拒否の哲学―戦争・法・国家
伊藤 貴雄
晃洋書房
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拙文:「読書 『棲み分け』の世界史 下田淳 著」、『聖教新聞』2015年01月31日(土)付。


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読書
「棲み分け」の世界史
下田淳 著
西洋文明が発展した背景

 文明として後発のヨーロッパがなぜ近代以降、一人勝ちすることが可能になったのか。それはサイエンスと資本主義の論理をいち早く獲得したことによるという。本書は「棲み分け」をキーワードにその内実を明らかにするが、世界史のイメージを塗り替える。
 中国やイスラムの帝国ではあらゆる資源が一極に集中するが、ヨーロッパでは、それは現在でも偏在する。権力の集中は時として技術向上も富の流通もストップさせてしまうのに対し、分散は富と革新を生む。封建制下の棲み分けが、競争を呼び、サイエンスと資本主義をもたらしたのだ。
 第1段階は自生的に進行するが、効率化を加速させる時間と空間の棲み分けは、能動的に展開する。単著は礼拝と世俗生活の分離というスケジュール化だ。時間・空間の均一化は効率がいい。だが常に規格外の排除と連動し、熱狂的なナショナリズムと植民地支配の肯定論理へと沸騰する。
 サインエスと資本主義を両輪とする飽くなき自己増殖は圧倒的な力をもたらしたが、常に成果を要請され、勝利か敗北かで分類しがちな現在は、豊かな生活なのか。「棲み分け」思考を問い直すことも必要だ。(氏)
NHKブックス・1404円
    --「読書 『棲み分け』の世界史 下田淳 著」、『聖教新聞』2015年01月31日(土)付。

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拙文:「読書:坂野潤治『<階級>の日本近代史』講談社 平等を無視し崩壊した民主主義 氏家法雄・評」、『公明新聞』2015年01月26日(月)付。


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<階級>の日本近代史
坂野潤治
平等を無視し崩壊した民主主義
東洋哲学研究所委嘱研究員 氏家法雄・評

 著者は近代日本に内在する民主主義の豊かな思想を丹念に掘り起こし、その透徹した実証的なリアリズムで政治史の認識を一新してきた。本書はその「自前のデモクラシー」論の総決算となっている。
 明治維新から普通選挙制の確立に至るその歩みとは、政治的平等希求の軌跡といってよい。農村地主の政治参加のうねりという明治デモクラシーは「国会」を作り、都市中間層の大正デモクラシーが「普通選挙制」を作った。ゆっくりと進む「自前のデモクラシー」は「地味」かも知れないが、それは「革命」にも匹敵する。
 さて、成年男子に限ったものだが政治参加の平等が拡大した昭和デモクラシーは格差是正を課題としたが失敗する。その実現は、戦争遂行のための均一化として総力戦体制下で奇しくも強制されてしまう。「階級」や「格差」を見過ごすことが歪(ゆが)みを招来するのであろう。その捻(ねじ)れは戦後も継承されている。即ち「平和」と「自由」の擁護に熱心なリベラル・革新勢力、「国民の生活」を結果として向上させてきた保守という構造だ。
 戦前日本の民主主義は実際に崩壊した。平等を無視したことがその最大の原因だが、空襲を経験した戦末派の著者は、平等の実現には戦争も独裁も必要ないと言う。平等の確立はどこまでも民主主義の課題であるからだ。
 必要なのは「『平和』の下で『自由』が尊ばれ、『自由』の下で『平等』が重視される」平和と自由と平等の三点セットという「攻め」の創意工夫だ。格差は放置すれば拡大すると喝破したトマ・ピケティの思索が交差する。
 雇用の四割近くが非正規雇用といわれる現代日本は不平等な階級社会と言ってよい。しかし「人間には格差はつきもの」と言われ、社会的不平等は放置されたままである。加えて平和と自由すらおぼつかないのが民主主義の現在だ。日本政治の来し方から未来を展望する本書の警鐘に真摯に耳を傾けたい。(講談社・1620円)

ばんの・じゅんじ 1937年生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。東京大学名誉教授。専攻は日本近代政治史。
    --「読書:坂野潤治『<階級>の日本近代史』講談社 平等を無視し崩壊した民主主義 氏家法雄・評」、『公明新聞』2015年01月26日(月)付。

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拙文:「読書:井上順孝編『21世紀の宗教研究』平凡社 刺激に富む先端科学との邂逅」、『聖教新聞』2014年11月22日(土)付。


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読書
21世紀の宗教研究
井上順孝編


刺激に富む先端科学との邂逅

 「科学的」という評価が合理的な価値あるものと見なされる現代。その対極に位置するのが宗教だ。宗教を迷信と捉えず、「宗教とは何か」を科学的に探究するのが宗教学の出発だったが、学の展開は飽くなき細分化を招き、原点と隔たってしまったのが現状だ。先端科学の知見と宗教学の接点を切り結ぶ本論集は、再び根本に問いに立ち返る刺激に満ちた一冊だ。
 井上順孝の論考「宗教研究の新しいフォーメーション」は、現代の宗教研究が向き合うべき諸学との交渉を俯瞰する総論といえる。著者は科学の新しいアプローチの需要に積極的だ。M・ヴィツェルの「神話の『アフリカ』」は、遺伝子研究と進化論をたよりに、言語以前にさかのぼり神話を大胆に比較検討する。
 長谷川眞理子の「進化生物学から見た宗教的概念の心的基盤」には瞠目する。宗教減少を「宗教的概念を使った思考」と捉え、例えば「世の中の悲惨に対して慰めを提供すること」が、生物学・脳科学的な進化の結果だと素描する。
 信仰をもつ「人間」は、動物でありながら他の動物と異なる。その両義性に注目するのが芦名定道の「脳神経科学と宗教研究ネットワークの行方」だ。物質(脳)と非物質(心)の関わりを解き明かす知見は、宗教研究の新しい可能性となろう。
 歴史的に、宗教学と自然科学の相性は良いとはいえなかった。しかし、科学自体、人間を探究する営みでえある以上、両者の邂逅は、従来の認識を一新する。(氏)
○平凡社・2592円
    --「読書:井上順孝編『21世紀の宗教研究』平凡社 刺激に富む先端科学との邂逅」、『聖教新聞』2014年11月22日(土)付。

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21世紀の宗教研究: 脳科学・進化生物学と宗教学の接点
マイケル ヴィツェル 芦名 定道 長谷川 眞理子
平凡社
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拙文:「読書:人は時代といかに向き合うか 三谷太一郎著(東京大学出版会)」、『聖教新聞』2014年10月25日(土)付。


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読書
人は時代といかに向き合うか
三谷太一郎 著

永遠なるものを射程に収める

 政治史の大家が「時代と向き合い歴史を学ぼうとするすべての人々」に贈る歴史との対話--近代日本の軌跡をたどる本論集は、さながら考えるヒントの玉手箱だ。
 近代日本の歩みとは、脅迫にも似た成長願望とその挫折の繰り返しである。著者は3・11の大震災を幕末以来の日本の「一国近代化路線の終わり」と捉える。それは「日本の近代を導いてきた『文明開化』・『富国強兵』のスローガンの方向指示の効力を最終的に失ったことを意味する」との歴史認識だ。
 「『人』は歴史を書くことによって、あるいは歴史を読むことによって、すなわち『時代』を認識することによって、はじめて『時代』を超えるのである」
 日本人はさまざまな「戦後」を検討すること、すなわち〝時代と向き合う〟ことを怠ってきた。本書はそのことをありありと浮かび上がらせる。白眉は、本来別のものである「人」と「歴史」の交差を描く著者の人物論であろう。吉野作造や南原繁らの時代の超え方は示唆に富む。
 本書は1988年に刊行された『二つの戦後』(筑摩書房)に12編を加えて再編したもの。『学問は現実にいかに関わるか』(東京大学出版会)の続編に当たる。一読して驚くのは、30年以上前に書かれた文章を収録していながら決して色あせていないことである、歴史との縦横な対話は、歴史主義への惑溺を退けつつ、永遠なるものを射程に収めている。 (氏)
東京大学出版会・3132円
    --「読書:人は時代といかに向き合うか 三谷太一郎著(東京大学出版会)」、『聖教新聞』2014年10月25日(土)付。

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人は時代といかに向き合うか
三谷 太一郎
東京大学出版会
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学問は現実にいかに関わるか
三谷 太一郎
東京大学出版会
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拙文:「書評 『仏教学者 中村元 求道のことばと思想』植木雅俊著」、『第三文明』第三文明社、2014年11月、96頁。

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書評
『仏教学者 中村元 求道のことばと思想』
植木雅俊著
角川選書 定価1,800円+税

“本物の思想家”の学究の歩み 鮮やかに描き出す


 卓越した専門性を持ちながらも万学に通じた「本物の思想家」は、百年に一人か二人、存在する。中村元もそうした「本物の思想家」の一人である。古代インド哲学の研究から出発し、東西の叡智に遍く精通した。著書・論文の数は一四八〇点余りを数える。私塾「東方学院」を開き、学びを世に拓いたその業績は前人未踏である。本書は晩年の中村に師事した最後の弟子によって著された浩瀚な評伝だ。中村の思想の核心と慈愛に満ちた生涯を明らかにする。“世界の中村”の肉声を伝える本書を読むと、権威化した「奴隷の学問」を何ら恥じることのない日本の学者などどれも霞んで見えてしまう。中村は、間違いなく二〇世紀を代表する世界の碩学なのだと。
 中村は常に「分からないことが学問的なのではなく、だれにでも分かりやすいことが学問的なのです」と語り、平易な言葉で人間ブッダの実像を浮き彫りにした。しかしそのことが「厳かさがない」と強烈な反感を買ったというから驚くほかない。ブッダは、その教えをバラモンの使う権威的言語であるサンスクリット語で伝えてはどうかと提案を受けたとき、「その必要はない」と退けた。仏教東伝の歴史は、伝言ゲームの如き権威化、歪曲の歴史といってよいが、中村への批判は、さながら仏教の歴史を見ているようだ。中村が丁寧に腑分けするブッダの肉声に寄り添えば、その本義は「真の自己」に目覚めることだ。難解がありがたいのではない。学問とは理解され人間を活かすことに要がある。中村の学問的苦闘が学説を一新していく挑戦そのものが、仏教の本義と交差する。晩年、中村は、東西の思想を比較吟味して普遍的思想史の構築に専念する。その目的は「世界平和を実現する手がかりを提供すること」だという。
 「ただ今から講義を始めます」--。真摯な探求は、死を目前にした昏睡状態の中でも続く。稀代の碩学逝きて十余年。著者は梵漢和を対照した『法華経』『維摩経』の画期的訳業で知られる。中村の魂は著者に間違いなく継承されている。僥倖を覚えるのは書評子のみでないだろう。
(東洋哲学研究所委嘱研究員・氏家法雄)
    --拙文「書評 『仏教学者 中村元 求道のことばと思想』植木雅俊著」、『第三文明』第三文明社、2014年11月、96頁。

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仏教学者 中村元求道のことばと思想 (角川選書)
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拙文:「読書 宗教とグローバル市民社会 ロバート・N・ベラー、島薗進、奥村隆編・岩波書店」、『聖教新聞』2014年09月27日(土)付。


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読書
宗教とグローバル市民社会
ロバート・N・ベラー、島薗進、奥村隆編

偏狭な国家主義への憂慮

 一昨年秋、宗教社会学の巨人ロバート・ベラーは85歳の恒例にもかかわらず来日し、立教大学などで精力的に講演した。本書は、その公園・シンポジウムの内容、招聘者の論考を収めた記録だ。
 テーマは、グローバル市民社会における市民宗教の可能性、「人類進化における宗教」に関する考察、政治思想家・丸山眞男の比較ファシズム論を通した現代日本への警鐘と幅広い。人生を振り返りつつ、未来を洞察するベラーの思索の総決算ともいうべき貴重な対話の数々である。
 弱肉強食を自明視する新自由主義が世界を席巻する中、その是正が政治的課題として取り上げられる。とすれば、それは同時に、抗う側の宗教の課題であろうとベラーは指摘する。グローバルな連帯には宗教的な動機が必要だからだ。
 注目すべきは丸山ファシズム論をめぐるベラーの評価であろう。自己中心的な関心を超え、他者へ向かう宗教的意識は民主主義につながると論ずる一方、排外主義と歴史修正主義に傾きがちな現代日本に警鐘を鳴らす。
 序文の中で「日本のナショナリズムの復活を、とくに深く憂慮する」と記した後、ベラーは急逝した。その言葉を真摯に受け止めたい。(氏)
●岩波書店・3024円
    --「読書 宗教とグローバル市民社会 ロバート・N・ベラー、島薗進、奥村隆編・岩波書店」、『聖教新聞』2014年09月27日(土)付。

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拙文:「書評:南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』 南原繁に学ぶ『現実』を『理念』に近づける営み」、『第三文明』2014年10月、第三文明社、94頁。


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書評
『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』
南原繁研究会編
EDITEX 定価2,000円+税

南原繁に学ぶ「現実」を「理念」に近づける営み

 先哲の思索に学ぶとは一体どういうことだろうか。それは無批判にありがたく御輿(みこし)を担ぐことでもなければ、限界を指摘することで「超克(ちょうこく)」したと錯覚することでもない。学び手がその理想を継承し、現実世界の中で創造的に活(い)かしていくことに要がある。その思索と実践を続ける本書の南原繁研究会は「学び」の美しき模範と言ってよいだろう。
 南原繁とは、戦後日本の「良質さ」をグランドデザインした思想家の一人だ。その「理念を持って現実に向かい、現実の中に理念を問われ」た精神に学び、未来を展望する市民と研究者の集まりが南原繁研究会だ。月に一度の読書会と毎年開催するシンポジウムは今年で一〇年になるという。本書は昨年一一月に開催された第一〇回シンポジウムの記録と研鑽(けんさん)の成果を収録したものだ。地道な努力はまさに「継続は力」という他ない。
 国際政治への学問的関心から南原繁の学問的生涯は始まる。講演「南原繁と国際政治」(三谷太一郎)はその消息を明らかにする。「国際政治学への非実証的アプローチ」で接近する南原の国際政治学とは、政治的立場と哲学的立場の不断の対話である。後年「現実的理想主義者」として活躍する南原の原点を見ることができる。パネル・ディスカッションでは、カント、フィヒテ、丸山眞男をキーワードに、南原の理想と限界を提示する。本書は秀逸な論功を数多く収録するが、石川信克氏の「国際保険医療協力の平和論的意義」が中でも印象的だ。開発途上国への健康問題への氏の取り組みの実践は、南原繁の精神を活かそうとの発露であると報告する。
 近年、「日本国憲法と旧教育基本法とに体現された戦後の理念や体制を葬(ほうむ)ろうとする」軽挙妄動(けいきょもうどう)が目に付く。戦後の日本社会はその崇高(すうこう)な理念をどこまでも活かし切れていないのが現状だから「戦後レジームからの脱却」などとは笑止千万(しょうしせんばん)だ。「戦後の理念をわれわれがどう活かし直すかを考える上で、大きな指針」になる南原に今こそ学びたい。
(東洋哲学研究所委嘱研究員・氏家法雄)
    --「書評:南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』 南原繁に学ぶ『現実』を『理念』に近づける営み」、『第三文明』2014年10月、第三文明社、94頁。

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